4. まとめと展望
本研究で筆者らはTADF活性な初の8の字型π共役分子を創出し,これが過去に報告されたTADFとCPLを両立する分子と比べて10倍程度高いg値でCPLを示すことを明らかにした。本成果はTADFと高効率なCPLを両立する分子設計指針として,8の字型構造の採用が効果的であることを示している。ただし,今回合成した化合物3を用いたOLED素子の外部量子効率は最大で3.8%と,優れたTADF材料が示す量子効率の5分の1程度であり,今後はさらなる改善が望まれる。
また,本成果は8の字型π共役分子の構造特異性を生かした数少ない材料開発の1つであり,この点にも学術的意義がある。CBBCが入手容易性に優れることを考慮すると,今回の成果を皮切りに,CP-OLED以外にもCBBCの8の字型構造の特異性を活かした材料開発が多方面で進められることを期待したい。
謝辞
本稿で記載した研究は,名古屋大学大学院工学研究科有機・高分子化学専攻において実施したものであり,研究室主宰者である忍久保洋教授に厚く感謝申し上げます。また,研究の実施に携わった学生である西本絵美子氏の努力に深く敬意を表します。CPL測定では名古屋大学の八島栄次教授,井改知幸准教授,森井宏美研究員に,円偏光リン光の測定では大阪大学の佐伯昭紀教授,石割文崇講師,大峰拓也様に,OLED素子の作製と評価では九州大学の安田琢磨教授,劉冠廷博士にお力添えを賜りました。本研究は,JST・さきがけ「π共役分子の内部を探索空間とする未来材料の創製」と(公財)立松財団特別研究助成の支援を受けて行われたものです。この場を借りて関係諸機関に深く感謝いたします。
参考文献
1)H. Uoyama, et al. Nature 2012, 492, 234.
2)T. Imagawa, et al. Chem. Commun. 2015, 51, 13268; S. Feuillastre, et al. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 3990; C. Liao, et al. ACS Appl. Mater. Interfaces 2021, 13, 25186.
3)Y. Morisaki, et al. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 3350; H. Kubo, et al. Org. Lett. 2020, 22, 9276.
4)Y. Sakamoto, et al. ChemRxiv 2023. (DOI: 10.26434/chemrxiv-2023-f1djk)
5)S. Y. Lee, et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 6402.
■Development of figure-eight-shaped third generation OLED material emitting efficient circularly polarized luminescence
■Norihito Fukui
■Department of Molecular and Macromolecular Chemistry, Graduate School of Engineering, Nagoya University, Lecturer
フクイ ノリヒト
所属:名古屋大学 大学院工学研究科 有機・高分子化学専攻 講師
(月刊OPTRONICS 2024年5月号)
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