4. 今後の課題
今後は,多機能ファイバーセンサーに対し,多くの重要な疾患の指標となる化学物質をターゲットとする分子プローブをファイバーに修飾し,複数の化学物質を同時に検出可能なセンサーの開発を推進する予定である。さらに,ファイバーアクチュエーターの動作自由度を高めることにより,カテーテル先端のより高度な駆動制御が可能となる開発も進行している。これにより,診断と治療の双方の機能を一つの多機能ファイバーカテーテル内に統合することで,実用性の高い生体内プローブの開発を目指す。また,新規の三次元(3D)マイクロ流路もファイバー内に集積し,新たな流体メカニズムの発見と統合的な流体制御を実現することで,光や電気化学センシングとの組み合わせにより,革新的な生体分析手法へとつながることが期待される。
ファイバ・テキスタイルの領域においては,多様な生体健康信号,例えば,汗中のストレスマーカー,脳波,心拍,体温などを同時に計測できる多機能ファイバ・テキスタイルの開発を進めている。情報処理と転送を可能にするフレキシブル電気回路を設計・製造し,これを多機能ファイバ・テキスタイルシステムと組み合わせることで,「スマート衣服」による心身健康状態の総合的な把握を実現する。さらに,体温,運動振動,汗中の乳酸などからエネルギーを回収し,電力として活用可能なフ ァイバー技術も開発し,これによりフレキシブル電気回路への電力供給を自給自足できる「スマート衣服」技術を推進していきたい。最終的には,脳,身体,環境からの多様な生体・環境信号を網羅的に計測・操作できる新規ファイバ・テキスタイルを開発し,脳・身体・環境との相互作用に対する理解をさらに深化させる貢献を目指したいと考えている。
謝辞
本研究は,東北大学学際科学フロンティア研究所が主体となり,科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(FOREST)(JPMJFR205D)を受けたものである。さらに本研究の一部は,東北大学学際科学フロンティア研究所学際研究共創プログラム,および文部科学省世界で活躍できる研究者戦略育成事業「学際融合グローバル研究者育成東北イニシアティブ(TI-FRIS)」,科学技術振興機構(JST)センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム(H31W15-1・R02W02-3),日本学術振興会科学研究費助成事業若手研究(18K15337)および国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)Interstellar Initiative(2022年度)の支援を受けて実施された。
参考文献
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3) Y. Guo, C.F. Werner, S. Handa, M. Wang, T. Ohshiro, H. Mushiake, T. Yoshinobu, Miniature multiplexed label-free pH probe in vivo. Biosensors and Bioelectronics 174 (2021), 112870.
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6) Y. Sato, Y. Guo, Shape-Memory-Alloys Enabled Actuatable Fiber Sensors via the Preform-to-Fiber, ACS Applied Engineering Materials 1 (2023), 822-831.
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■Non-invasive cell diagnosis using the Paint Raman Express Spectroscopy System(PRESS)
■Yuka Akagi
■Cellular and Molecular Biotechnology Research Institute,National Institute of Advanced Industrial Science and Technology(AIST), Researcher
グオ ユアンユアン
所属:東北大学 学際科学フロンティア研究所 医工学研究科/医学系研究科(兼) 准教授
(月刊OPTRONICS 2023年12月号)
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