励起錯体アップコンバージョン型有機EL開発と乾電池1本の超低電圧駆動

一方で,BCPをC8-PTCDIに置き換え,ドーパントとしてDBPをドープしたデバイスにおいて,オレンジ色(608nm)のOLEDが0.97Vで発光開始し,スマートフォン相当輝度(100cd/m2)を1.5Vで達成することに成功した。C8-PTCDIはBCPに比べLUMOが深く容易にはRubreneへ電子注入できないため,C8-PTCDI内部に電子が滞留しやすい状態が生まれる。C8-PTCDI内部の電子とRubrene内部の正孔が電荷再結合することでExciplexを形成している。その後,ExciplexエネルギーをRubrene内でTTUにより昇圧し,効率良く発光させることで超低電圧な高輝度OLEDとなる。

3. デバイス構造の最適化とExUC-OLED駆動メカニズム

このように固体界面から生じたExciplexエネルギーをTTUによる昇圧として初めて報告20)したのは著者の一人である伊澤・平本らのグループであり,これは光励起により固体界面に電荷分離状態を形成した後,TTUにより昇圧されたS1発光を得ている。これにより,近赤外光を可視光に変換する固体薄膜として報告している。その他にもRubreneをTTU材料としたOLEDに関する先行報告はあるが,アクセプターにフラーレンを使用した報告21~23)が多く,発光効率が低いのが課題であった。

図4  ExUC-OLEDのデバイス構造最適化に伴う(a)輝度電圧特性と(b)外部量子効率(EQE)の推移。(c)従来OLEDとExUC-OLEDのEL過渡応答測定。(d)三重項励起子密度とD/A界面との関係,(e)ExUC-OLEDのメカニズム概略。
図4  ExUC-OLEDのデバイス構造最適化に伴う(a)輝度電圧特性と(b)外部量子効率(EQE)の推移。(c)従来OLEDとExUC-OLEDのEL過渡応答測定。(d)三重項励起子密度とD/A界面との関係,(e)ExUC-OLEDのメカニズム概略。

一方で富山大のグループからは,アクセプターをPTCDIとしたマルチファンクションダイオードの報告24)がなされている。これは太陽電池と有機ELの多機能デバイスを実現したものであり,デバイス性能の一つとして1V近傍からの発光開始が報告されている。著者らはこれらの先行研究を鑑み,アクセプターをC8-PTCDIへと変更することで外部量子効率(EQE)を向上することに成功した(図4(a)(b))。

次に,ドナー兼発光材料であるRubreneに注目すると,RubreneはUC材料であると同時に一つのS1が2つのT1へ乖離するSF特性を併せ持つ。これはTTUによる昇圧後もSFによる逆プロセスにより,大きなロスプロセスの存在を意味している。

そこでRubreneに適したドーパントとしてDBPを添加した。ドーパントは励起状態エネルギーを素早く安定して発光過程へ導く性質をもつため,ドーパン添加によりRubreneでのS1滞在時間を短縮しSFやその他ロスプロセスを抑制することで,輝度-電圧特性の急峻な立ち上がりとEQEの大幅な向上につながった。これらの成果により,先行研究に比べ2桁のEQE向上と,超低電圧での高輝度発光OLEDの実証に成功した(図4(a),(b))。

次にExUC-OLEDの駆動メカニズムを調べるため,電源オフ後のEL過渡応答を測定した(図4(c))。BCPを用いた従来型OLEDでは1μs以下の急峻な立下りののち,緩慢な発光が確認できる。これは発光材料であるRubreneの直接励起による急峻な蛍光発光と,TTUを経由した遅延蛍光の2種類が発光に寄与していることを示す。

一方で,ExUC-OLEDではドーパントによらず,緩慢な発光のみが確認できる。これはすべてのEL発光がTTU経由であることを示唆しており,我々の提唱するExUCメカニズム(図2(b))を裏付ける結果となった。次にExciplexにより生じた励起子がD/A界面からどの程度拡散するのかを調査した。TTUにより生じたS1の捕獲材としてDBP,T1捕獲材として銅フタロシアニンを用い,局在的なドーパントエリアを制御することで励起子拡散距離を実測すると,D/A界面から約10nm程度でT1密度が急激に低下していた(図4(d))。

これらの結果より, ExUC-OLEDはすべての発光過程において,ExciplexおよびTTUを経由した発光であり,TTUに寄与するT1はD/A界面10nm程度に約90%が集中することで,効果的なTTU発現につながっていることを示している(図4(e))。

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