放射線耐性に優れた宇宙用太陽電池に向けて:III 族窒化物太陽電池の可能性

3. まとめと今後の展望

本研究グループでは,第一原理計算を用いた理論的手法により,宇宙用太陽電池材料として高いポテンシャルを持つIII族窒化物半導体の欠陥生成エネルギーを調べ,放射線耐性に関する知見を蓄積している。欠陥生成エネルギーは,10 eV~と身近な現象におけるエネルギーに比べるとはるかに大きいようであるが,宇宙線のエネルギーがMeV~GeVオーダーであるため,ひとたび半導体原子核に衝突すれば,原子は容易に散乱されると考えられる。

一方で,宇宙線に対する原子核の散乱断面積は非常に小さいため,単に欠陥生成にかかるエネルギーだけでなく,散乱断面積を考慮した欠陥生成確率を求めることが本質的に重要である。本研究グループでは,他材料に対して欠陥生成確率の評価手法を報告しており4),今後III族窒化物に関しても評価を行う予定である。理論的手法を通じて考察を深めるとともに,実験,実用化に対する具体的な指針となる研究を目指してゆきたい。

謝辞

本稿は,工学院大学先進工学部応用物理学科の卒業研究として行われたものの一部をまとめたものです。鈴木涼馬氏,堀井歩氏,佐藤龍生氏,住友誠太郎氏,江川雄人氏,財前巧氏との共同研究の下で行われたことを申し述べ,感謝いたします。また,本研究に関して工学院大学本田徹教授,赤城文子教授,尾沼猛儀教授に助言をいただきました。ここに感謝いたします。

参考文献
1) T. Takamoto, M. Kaneiwa, M. Imaizumi, and M. Yamaguchi, “InGaP/GaAs-based multijunction solar cells”, Prog. Photovolt: Res. Appl., 13: 495-511 (2005). https://doi.org/10.1002/pip.642
2) T. Takamoto, T. Takamoto, T. Agui, H. Washio, N. Takahashi, K. Nakamura, O. Anzawa, M. Kaneiwa, K. Kamimura, K. Okamoto, M. Yamaguchi, “Future development of InGaP/ (In) GaAs based multijunction solar cells,” Conference Record of the Thirty-first IEEE Photovoltaic Specialists Conference, 2005., pp. 519-524 (2005), doi: 10.1109/PVSC.2005.1488184.
3) T. Sumita, Y. Shibata, T. Nakamura, K. Shimazaki, A. Kukit, M. Imaizumi, S. Sato, T. Ohshima, and T. Takamoto, “Flight demonstration of inverted metamorphic triple-junction solar cells in space”, Japanese Journal of Applied Physics 57, 08RD01 (2018).
4) R. Suzuki, T. Yayama and F. Akagi, “Point Defect Generation Probability in Rare-Earth Permanent Magnets in Radiation Environments via First-Principle Calculations,” in IEEE Transactions on Magnetics, vol. 58, no. 8, pp. 1-5, Aug. 2022, Art no. 2101805, doi: 10.1109/TMAG.2022.3142156.

■Group-III nitrides as a potential material for space-ray proof space-use solar cells
■Tomoe Yayama

■Assistant professor, Department of Applied Physics,School of Advanced Engineering, Kogakuin University

ヤヤマ トモエ
所属:工学院大学 先進工学部応用物理学科 宇宙理工学専攻 助教

(月刊OPTRONICS 2022年12月号)

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