1. はじめに
ハイブリッド光集積は,集積光回路の性能を高め応用可能性を広げる上で極めて重要である。光集積回路に対しその構成材料とは異なる材料を融合することで,単一の材料系では成しえない機能を実現することができる。
最も知られた例としては,発光デバイスに向かないシリコンフォトニクス光回路へ,化合物半導体によるレーザーをハイブリッド集積した研究が挙げられる。しかし一般に,異種材料集積は容易でない。代表的なハイブリッド光集積手法であるウェハ融着では,光回路を形成する基板上へ異種材料をウェハ融着することで複合材料基板を形成し,プロセスの出発点とする。
多くの場合,光回路の構成材料と異種材料との微細加工条件は大きく異なるため,複合材料基板上でのプロセス最適化は複雑化する。搭載する異種材料の数を増やすたびに,プロセス最適化が累積的に難しくなることは想像に容易い。
この課題を解決する一つのアプローチがピックアンドプレース操作による光デバイス集積である。光集積回路と異種材料による光素子を別々に加工し,後者を回路上へ“後載せ”することでハイブリッド集積を実現する。これにより各要素の作製プロセスが分離される。
従って異種材料の数が増えた場合にも,個々の材料毎にプロセスを最適化すればよく,累積的なプロセスの複雑化を防ぐことが可能となる。広義にはフリップチップボンディングもこの技術に含まれるが,集積可能な素子サイズが大きく高い位置合わせ精度の実現が難しく,高密度なハイブリッド光集積への応用は難しい。
また,電子線/光学顕微鏡下におけるマイクロマニピュレーション法も適用可能であるが,操作自由度が高過ぎるため熟練の人間が手作業で集積を実行する必要があり,大量生産に不向きである。
著者らは,上記の課題を解決しうるピックアンドプレース集積手法として転写プリント法1, 2)を研究している3~11)。同手法では,透明な粘弾性ゴムを用いて異種材料による光素子をピックアップし,光回路へ集積する。光学顕微鏡下で操作することで,数十nmの位置合わせ精度で転写集積が可能である。ゴムと光素子は面接触するため適切に操作自由度が抑えられおり,集積プロセスの自動化も可能である12)。
さらには,多数の素子を一括して集積することも可能であり,大量生産への応用も期待できる13)。本稿では,同手法の概要とその応用,さらには将来展望について紹介する。