計測分野へ向けた高精度な距離・形状測定を実現するTOF距離イメージセンサ

3. インパルス駆動TOF距離計測と高速ロックイン画素による高精度化

図4 インパルス駆動によるTOF距離計測
図4 インパルス駆動によるTOF距離計測

著者らは,極限まで高い距離分解能を得るために図4に示すインパルス駆動型TOF距離計測15)を提案している。光源を100 ps以下の短いパルス幅とし,変調素子の光電流応答から距離計測を行うもので,変調素子の高速な応答によって,より高い距離分解能が得られる。

この特長を最大限に活かすために,高速変調に適したラテラル電界制御電荷変調素子(LEFM)を提案・開発を進めている16)図5(a)は,2タップ型の場合の断面と電位分布を示しており。埋め込みフォトダイオード内の光電子を移動させる方向の側面にMOSゲート構造を設ける。この側壁ゲートの印加電圧によって生じる横電界によってフォトダイオード中のチャネルに勾配が形成され,発生した光電子を右または左方向に高速に移動させ,2つの蓄積部への光電子の蓄積時間を制御することができる。

図5 (a)ラテラル電界制御変調素子(LEFM)の概念図,(b)3-tapLEFM
図5 (a)ラテラル電界制御変調素子(LEFM)の概念図,(b)3-tapLEFM

本方式の場合には,1回で計測できる測距範囲は30~100 mmほどに制限されるが,TOF法では測距範囲を電子的に制御できるため問題とはならない。測距範囲の電子制御は,光源パルスと時間窓の位相を調整することで実現できる。これにより,複数のフレームに分けて取得することで測距範囲を拡大できる。

4. イメージセンサの試作例

図6  1タップLEFMによるロックイン画素を有するTOF距離イメージセンサ(@IEEE)
図6  1タップLEFMによるロックイン画素を有するTOF距離イメージセンサ(@IEEE)

これらの提案手法によるイメージセンサの試作例を述べる。まず,1タップ LEFM素子によるロックイン画素(132×120画素)を有するTOFセンサを開発した(図6)17)。このような画素アレイの場合には,画素間のクロックスキューが問題となり3次元撮像を難しくするが,スキュー補正回路の集積化により,問題ないレベルまで抑えている。本距離センサでは測距レンジ30mmにおいて距離分解能σ = 0.25mm,時間分解能にして1.7psが実現されており,良くても数mm程度であった従来のTOF距離センサの距離精度を1桁以上,向上させることに成功した。

続いて,さらなる高距離分解能化のために図5(b)に示す3タップLEFMによる距離撮像素子(有効画素192×8)を開発した(図7左上)18)。全電子式のスキュー補正回路の開発により補正時間の大幅な削減を実現している。距離分解能を制限していた光源トリガのジッタを低減するために,図7に示す参照光サンプリング法14)を考案・実装した。本手法は間接TOFの特長である多画素構成を活かした手法である。光源からの光を2つに分離し,一方を撮像対象へ照射してTOF計測を行う。

図7  3タップLEFMイメージセンサと参照光サンプリング法の概念,および原理検証ための実験系
図7  3タップLEFMイメージセンサと参照光サンプリング法の概念,および原理検証ための実験系

他方は,既知の距離に用意した固定参照面に照射し,この反射光を画素アレイの一部(参照画素)で検出する。この参照画素の出力から光源のジッタ成分に依存するゆらぎ成分のみを検出できる。したがって,主画素と参照画素の距離演算値の差分をとることで,相関のある光源トリガ信号に起因するジッタを低減できる。この手法の適用によって,距離レンジ25 mmにおいて距離分解能64 µmを達成した。これは,時間分解能にして430 fsに相当するものである。

図8に,形状計測を行った結果を示す。図8(a)に示す直径20mmの基準球を対象物とし,1軸ステージを用いて0.2mm ステップでスキャンして取得した。図8(b),(c)は参照光サンプリングの有無の違いを示しており,どちらも100フレーム平均して取得したものである。参照光サンプリングなしの場合には,スキャンしていくにつれて低い周波数のノイズの影響を受けて正確な形状計測が行えていない。

図8 点群データの取得例(@IEEE)
図8 点群データの取得例(@IEEE)

一方で,参照光サンプリングありの場合には,これが改善されていることがわかる。図8(c),(d)はフレーム平均の有無を示しているが,図8(d)に示すようにフレーム1枚の点群においても良好な点群データが得られている。

図9に,3次元形状スキャン例を示す。猫のミニチュアを対象物として,6方向からスキャンした点群データを,位置合わせをしてメッシュデータを生成した。形状計測が行えていることが確認できる。

図9  取得した3Dデータ。6方向から取得した点群データからメッシュを生成した。
図9  取得した3Dデータ。6方向から取得した点群データからメッシュを生成した。

5. おわりに

本稿では,極めて高い距離精度を実現するTOF距離イメージセンサについて紹介した。現状の距離精度は100µmを切るレベルであるが,今後もさらに改善できる見込みであり,10µmレベルまでも可能と考えている。試作例に示したイメージセンサの画素数も,求められるニーズにより変更可能である。高精度なTOF距離計測をお考えであれば,問い合わせ頂きたい。

5. 謝辞

本研究の一部は,JSPS科研費19H02194,18H05240, JST COI STREAMの支援,東京大学大規模集積システム設計教育研究センターを通し,日本ケイデンス㈱,メンター・グラフィックス㈱の協力を受けて行われた。

参考文献
1) T. Spirig et al., IEEE J. Quantum Electron., vol. 31, no. 9, pp. 1705-1708 (1995).
2) S. Kawahito et al. In Proc. of the International Display Workshops INP2-2 (2018).
3) S. Kawahito et al., IEEE Sensors J., vol. 7, no. 12, pp. 1578-1586 (2007).
4) D. Stoppa, et al., IEEE J. Solid-State Circuits, vol. 46, no. 1, pp. 248-258 (2011).
5) S. -M. Han, K. Yasutomi, S. Kawahito et al., IEEE J. Electron Devices Soc., vol. 3 (3), pp. 267-275 (2015).
6) C. S. Banji et al., IEEE J. Solid-State Circuits, vol. 46 (1), pp. 248-258 (2015).
7) C. S. Bamji et al., Dig. Tech. ISSCC, pp. 94-95 (2018).
8) Y. Kato et al., IEEE J. Solid-State Circuits, vol. 53 (4) pp. 1071-1078 (2018).
9) M. Keel et al., IEEE J. Solid-State Circuits, vol. 55 (4), pp. 889-897 (2020).
10) D. Kim et al., IEEE J. Solid-State Circuits, vol. 55 (11), pp. 2849-2865 (2020).
11) K. Yamada, K. Yasutomi, S. Kawahito et al., Proc. of Electronic Imaging 2018, pp. 326-1-326-4 (2018).
12) Y. Shirakawa, K. Yasutomi et al., MDPI Sensors, 20 (4), 1040 (2020).
13) K. Kondo, K. Yasutomi et al., Extended Abstracts of the 2018 International Conference on Solid State Devices and Materials, Tokyo, pp. 601-602 (2018).
14) S. Lee, K. Yasutomi et al. MDPI Sensors, 20 (1), 116 (2019).
15) K. Yasutomi et al., OPTICS EXPRESS, 22 (16), pp. 18904-18913 (2014).
16) S. Kawahito et al., Proc. 2013 Int. Image Sensor Workshop (IISW), pp. 361-364, Jun. (2013).
17) K. Yasutomi et al., IEEE Trans. on Electron Devices, vol. 63, no. 1, pp. 182-188 (2016).
18) K. Yasutomi, et al. Y. Okura, K. Kagawa, S. Kawahito, IEEE J. Solid State Circuits, vol. 54 (8), pp. 2291-2303 (2019).

■Sub-100 μm-range-resolution 100 μm Time-of-Flight range image sensors
■Keita Yasutomi

■Associate Professor, Research Institute of Electronics, Shizuoka University

ヤストミ ケイタ
所属:静岡大学 電子工学研究所 准教授

(月刊OPTRONICS 2021年5月号)

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