印刷技術を用いたナノフォトニクスデバイス作製と高感度バイオセンサ開発

3. ナノフォトニクスデバイスを用いたバイオセンサ開発

NILを用いて作製したナノフォトニクスデバイスの中でも筆者らは,ナノメートルサイズの誘電体が周期的に配列した光学素子「フォトニック結晶(Photoniccrystal:PhC)」を作製し,バイオセンサへの応用を行っている。

PhCは,構造が周期的に配列していることから周期的な屈折率分布を有し,回折格子と同様に周期に依存した特定波長の光回折・反射を観察することができる。加えて,観察される回折・反射特性は,周囲の屈折率に対して変化することから,前述した生化学反応によって誘起される周辺屈折率変化を回折・反射特性変化として観察することができる。

筆者らが作製したPhCは,格子定数460nmであり,波長500nm近傍に回折・反射ピーク波長を有する。これは,構造色が目視で観察可能な波長である。

図3 PhCを用いたバイオセンサ原理概略図
図3 PhCを用いたバイオセンサ原理概略図

筆者らは,NILを用いてPhCを作製し医療応用を目指したバイオセンサ開発をこれまでに行っている。開発したバイオセンサの検出原理を図3に示す。NILを用いて作製したPhCへ測定対象物質を特異的に認識する生体由来物質(図中では抗体を使用)をあらかじめ固定化する。

生体由来物質を固定化したPhC上へ血液など試料溶液を滴下させ,試料溶液中の測定対象物質と生体由来物質とが結合することでPhC周辺の屈折率が変化し,PhCの光回折・反射特性が変化する。本バイオセンサは,その変化量から測定対象物質濃度を定量するものである。 

筆者らは,これまでに抗原抗体反応やDNAハイブリダイゼーション,酵素反応などの生化学反応を,PhCを用いて検出することにより,インフルエンザウイルス(感染性疾患)6),インスリン(生活習慣病)7),ウロキナーゼ(癌)8),ApoE(認知症)9),C反応性タンパク質(炎症)10)など種々の疾病マーカー分子の濃度を高感度に定量することに成功している。

開発したバイオセンサは,検出限界濃度がpg/mlオーダーであり,従来の検査手法と同等・あるいはそれ以上の検出限界濃度を有していることが明らかとなっている。

4. 日常生活に身近なバイオセンサ開発へ

前述した実績を基に現在筆者らは,在宅で疾病の診断が可能な「日常生活に身近なバイオセンサ」開発にも取り組んでいる。近年コンピュータやスマートフォンなどのIoT(Internet of Things)デバイスは急速に普及している。

これらIoTデバイスと連携したバイオセンサを開発することにより,測定データを医療機関などへ送信・保管することで,日常の健康状態の把握,疾病発症予測・予防が可能になると考えられる。

加えて筆者らが作製しているPhCを用いたバイオセンサは,光回折・反射波長が可視領域となるように設計しているため,スマートフォンに搭載されているカメラを用いて,測定対象物質の検出・定量も可能となる。

筆者らはこれまでに企業と連携してスマートフォンのカメラを用いてPhCより観察される色彩を撮影,RGB強度解析から測定対象物質濃度を定量することにも成功している。 

このように,我々の生活環境に溶け込んだバイオセンサを提供することで,家電製品のように誰もが「意識することなく」健康状態を把握・管理できるようになればQuality of life(QOL)向上に貢献することができると考えている。

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