1. はじめに
軟X線(SoftX-Ray:SXR)及び極端紫外線(ExtremeUltra-Violet:EUV)(波長1-20nm程度)は,光電子分光を通じた機能性材料開発1)や,生体その場観測(水の窓領域,波長2.4-4.4nm)2),次世代半導体露光(波長6.xnm,13.5nm)3)など利用可能であることから,大きな注目を集めている。
この領域の光源方式は様々あるなかで,レーザー生成プラズマ(Laser-ProducedPlasma:LPP)方式は,多価電離プラズマを生成し,特定の波長域のみに大光量の光源を可能とする。LPPは加速器と比較して小型で経済的優位性を有すると同時に,X線管を始めとする実験室光源よりも6桁程度高出力である4)。
また硬X線と異なり,SXR/EUVでは反射(干渉)光学系が存在するため,求められるのは照明光学系が許容するエタンデュ(発光面積×立体角)内での高出力である。加速器に代表される超低エタンデュ(エミッタンス)・高輝度光源とは全く異なる性能が求められる。このような事情もあり,半導体露光(波長13.5nm)ではLPPが採用されている5)。
著者らは光源用プラズマの診断・計測という立場から,EUV露光研究に携わってきた。EUVの最高出力や安定稼働時間は日々進化している。露光システム全体の最新事情は他の文献に譲るとして3,5),ここでは著者らが行ってきた,光源用プラズマの電子状態,すなわち電子密度や電子温度の計測技術開発と,それがもたらす光源設計の新たな可能性について紹介する。著者らの研究により,「なぜこの光源生成条件であれば,EUV強度が高くなるのか」を,プラズマ状態から明確に説明可能となった。
以下,第2章では,著者らが光源診断の軸として行ったレーザートムソン散乱(LaserThomsonscattering:LTS)法の概要を述べ,第3章では,EUV光源の研究背景とLTS法適用までの技術的課題,そして高効率EUV光源のプラズマ構造について示す。第4章ではむすびとして,本研究紹介をまとめる。
2. LTS計測法の概要
ここでは著者らがEUV光源用プラズマの診断に用いたLTS計測法について簡単に説明する6)。LTS計測法では,計測用レーザーによりプラズマ内自由電子を強制的に振動させ,そこからの2次的電磁波を分光・解析する。レーザー軸とは異なる方向から観測する「散乱」計測であり,局所情報が得られ,数nsの時間分解が容易に達成できる。
散乱光は電子の熱速度を反映してドップラーシフトするため,中性粒子からのレイリー散乱と同じく,スペクトル拡がりからTeを決定できる。電子の熱的揺らぎ成分が検出されるため,散乱光強度とneが比例し,neは絶対値として得られる。
ただし,計測の波数ベクトルkとプラズマ条件によっては,個々の電子ふるまいではなく,プラズマ中の集団的ふるまい(イオン音波や電子プラズマ波など)が反映される。前者を非協同散乱,後者を協同散乱と呼ぶ。協同散乱ではさらに,イオン項・電子項という強度も幅も大きく異なる二つのスペクトルからなる。計測用レーザーに可視波長域を利用すると,EUV光源の場合協同散乱となる。また,さまざまな事情で,イオン項の計測を行った。
次章では,イオン項の計測結果についてしめす。