電子状態計測で挑むEUV露光光源用プラズマの最適設計

図4 光源生成3条件でのne,Teの2次元空間分布と発光強度ηEUV

3.3 電子密度・温度の2次元分布計測

半径方向にプローブレーザを移動してこのような測定を行うことでne,Teの2次元分布を得ることができる。光源生成3条件でのne,Teの2次元分布を図4に示す。

光源はレーザーに沿って軸対称だと仮定し,上側半分(r>0)だけを計測した。CO2レーザーパルス幅は20ns半値全幅程度であり,ピーク強度付近で最大のEUV強度が得られた。

図4は,ピーク強度付近の時刻にて計測したもので,時間幅は5nsである。図4では200点ほどの計測点同士の間を補完し,滑らかにつないで示している。

最終段は,計測で得られたne,Te(およびイオン価数Z。ここでは示していない)から,発光強度Emissivityを算出し,プロットしたものである。

簡単に各プラズマの状況を見ていく。

まず∆t=1.3μsのプラズマ(以降は1.3μsプラズマと呼ぶことにする)では,他のプラズマよりもneが高いことがわかる。この理由はわかりやすく,初期のSn原子密度が高いことが関係していると考えられる。

CO2レーザーは逆制動放射過程(古典的な,よく知られた電磁波の吸収過程)を通じてプラズマ内の電子を加熱するが,密度の低い領域(x<0)を通過した後にカットオフ密度(CO2レーザーの場合は約1025m–3のneであり,これより高いneの領域には,レーザー光は侵入できない)で遮断されるため,その前面部分のみを加熱することがわかる。

CO2レーザーで効率よく加熱される領域は,カットオフ密度に達する直前の100μm幅程度(–100μme,neが形成される領域が狭いことがわかる。

結果として高い発光強度となる領域が小さくなる。初期のSn原子密度,およびプラズマの密度が高すぎても,発光効率は上がらないことがわかる。

次に2.5μsの結果を見ていく。

neはどこも1024m–3台と低く,カットオフ密度に到達する箇所はみあたらない。これはスズターゲットが膨張しすぎたため,初期のスズ原子密度が低いことが関係していると思われる。

その結果,広い範囲でCO2レーザーが吸収され,Te分布としては良好である。しかしne(と同様にイオン密度)が低すぎるため,EUV発光強度は全体的に低い。実用水準の変換効率(4%)を達成した2.0μsプラズマでは,neは中心部で約4×1024m–3,半径200μm程度の部分で1025m–3以上となっている。このような中空様のne分布構造は,これまで予想されていなかったものである。

他方,Teは,プラズマ中心部では40eV程度となっており,これは理論上のEUV光生成最適Te条件と合致する。また,半径方向100μmにわたり30eV以上の領域が形成されている。文献7)で議論しているように,ここで観測されたne,Teの分布が,大きな体積での高効率のEUV光発光を可能としている。

図4で示した2.0μsプラズマのEUV強度分布は,レーザー強度が最も高い中心軸上(r=0)では,むしろ低い結果であり,図4下段で示したEUV発光分布とは矛盾しているように思われる。しかし実際には,局所値がわかるLTS計測結果を,光源が軸対称だとして視線方向に積分すると,似たようなEUV分布となる。

図4の結果は,許容エタンデュ内(EUVを集光するミラーの立体角がπradの時,許される光源直径は0.5mm程度となる)にEUV発光に寄与していないスズイオンが大量に存在すること,そして変換効率改善には,ビーム形状の整形を行い,これら発光に寄与していない,低温のイオンを狙い撃ちしなければ,解がないことを示唆している。

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