2.2 全誘電体型メタ表面の発見
メタ表面の研究が世界的に進展するにつれて,屈折率の大きな誘電体(シリコンや二酸化チタンなど)のみを材料とする全誘電体型メタ表面やその構成単位であるナノ共振器の特性や有用性が報告されるようになってきた18, 21)。全誘電体型メタ表面が蛍光増強効果をもつかどうかは知られていなかったが,筆者はシリコンナノ共振器アレイからなる全誘電体メタ表面でその効果を検証することにした。
図3(a)は,電子線リソグラフィ法で作製したシリコンナノキューブアレイからなる全誘電体型メタ表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。斜めから撮像した。周期330 nm,キューブの1辺が220 nm,高さが200 nmであった。この構造で可視光域に共鳴状態があることを数値計算による反射スペクトルから事前に把握して作製を行った。垂直入射下の反射スペクトルを図3(b)に示している。反射率が0%から100%まで変化しており,反射率の極大値,極小値が共鳴状態に対応する。なお,絶縁体(SiO2)上のシリコンという意味で図3(b)にはSOIと表記している。
図3(c)は共鳴電場│E│分布を示している。図3(b)の矢印波長(639.3 nm)におけるシリコンナノ共振器付近の電場分布を示している。シリコンナノキューブの外周面に共鳴増強された電場分布があることが分かる。入射光の電場を│E│=1と設定した。したがって,最大│E│=7.1の値をとり,電場強度│E│2としては約50倍の共鳴増強があることが分かる。一方,磁場はナノキューブ内部に強く局在する14)。これらを総合すると,反射率が極大となる,この共鳴は高次の磁気共鳴と分類できる。定性的には,磁気共鳴は平面波と結合しづらいために(言い換えれば,インピーダンスが大きいため),反射率が高くなる傾向にある。
全誘電体型メタ表面上において,蛍光増強実験を行った。この場合も蛍光分子R590を用いた。結果の一例を図4(a)に示す。波長590 nm付近に細いピークをもつ共鳴増強された蛍光スペクトルを太線で示す。比較用の参照信号(Ref.)は,平坦なシリコン基板上で測定したもので,100倍拡大して,実線表示している。なお,参照信号はスムージングをかけて,ノイズを除去している。測定した反射スペクトルは点線で示し,右軸に対してプロットしている。波長590 nmで反射率の極大と増強蛍光のピークが一致している。
先の図3(b)中の矢印がこの共鳴に対応したものである。図4(b)では,増強された蛍光信号を参照信号で割って,増強度を示している。ピークで900倍を超える大きな増強度が得られた。構造パラメータを変えたメタ表面では,増強度が1000を超えた場合も見出した14)。以上のように,全誘電体型メタ表面においても,顕著な蛍光増強効果が得られることを明らかにした。この場合にも増強効果の均一性は高く,励起光スポット依存性は小さかった。このことは再現性の高さに直結するため,重要である。
構造パラメータが異なるメタ表面においては,増強度が数百倍以下に下がることも分かっている14)。最適な設計のもとで顕著な蛍光増強が得られることを特に付記したい。