6. おわりに
有機色素材料の開発は,光科学研究において最も基礎に位置するものだと考えられる。基本的には薬品の混合を繰り返す非常に泥臭い化学であり,洗練された理論が存在する物理・機械分野と比較すると時代遅れの感があることは否めない。そのためか,最前線の研究開発現場においては自前で色素の開発を行わなくなっているという話も耳にする。しかし,こと有機近赤外色素となるとまだまだ発展途上と言えるのではないだろうか。
実際,本錯体は金属周りこそ一般的な八面体型六配位構造であるものの,いずれの錯体も700 nmを超える近赤外領域に非常に強い光吸収帯を持ち,その強度は既存の近赤外光を吸収するとされるルテニウム錯体5)の10倍以上に達する。また本錯体群は前駆体を変えるだけで様々な官能基の導入を選択的に行うことが可能であり,それに伴う光・電気特性も系統的に説明可能であった。これら「オンリーワン」の性質に着目した応用研究は現在多数進行中である。本記事における材料の構造および光特性が,光産業技術者に対し何らかのインスピレーションを与えることになれば幸いである。
2)T. Furuyama, F. Shimasaki, N. Saikawa, H. Maeda and M. Segi, “One-step synthesis of ball-shaped metal complexes with a main absorption in the near-IR region,” Sci. Rep. Vol. 9, 16528 (2019).
3)A. Braun and J. Tcherniac, “Über die produkte der einwirkung von acetanhydrid auf phthalamid,” Ber. Dtsch. Chem. Ges. Vol. 40, 2709 (1907).
4)K. Hanson, L. Roskop, P. I. Djurovich, F. Zahariev, M. S. Gordon and M. E. Thompson, “A paradigm for blue- or red-shifted absorption of small molecules depending on the site of π-extension,” J. Am. Chem. Soc. Vol. 132, 16247 (2010).
5)T. J. Whittemore, T. A. White and C. Turro, “New ligand design provides delocalization and promotes strong absorption throughout the visible region in a Ru (II) complex,” J. Am. Chem. Soc. Vol. 140, 229 (2018).
■Graduate School of Natural Science and Technology, Kanazawa University, Associate Professor
(月刊OPTRONICS 2020年2月号)
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