3. HOEによる直立型虚像ディスプレイ及び虚像カメラ
空中映像技術は空中に2D映像を表示する技術である。スクリーンの存在感が知覚させないため,例えばPepper’s ghost3)のような,実世界との融合感の高い映像表現が可能である。空中映像をスクリーンの奥側に表示する場合,つまり虚像を表示する場合,傾けたハーフミラーをスクリーンに用いることが一般的である。もし虚像表示を一般的なスクリーンと同様に地面から直立する透明型平面スクリーンで実現できれば,壁や窓,ドア,スマートフォン画面等の人工物と融合した薄型構成で虚像スクリーンを実装でき,例えばコンパクトな双方向映像コミュニケーション装置などに虚像ディスプレイが応用可能となる4)。
我々は,オフアクシス鏡として機能するHOEを用いた直立型虚像ディスプレイを提案している5)。構成を図3に示す。HOEはホログラムであるため,入射角≠反射角となるような鏡として機能させることが可能である。そのため,ハーフミラーとは異なり,素子を直立させた状態であっても素子の光軸外の物体を素子の奥側に映り込ませ,虚像として表示することができる。言い換えれば,HOEを直立型虚像スクリーンとして機能させることが可能である。
しかしながら,HOEは回折光学素子であるため,素子から出射した光に波長分散が生じる。この波長分散は虚像の空間ボケとして視認されるため5),明るい広帯域インコヒーレント光源を用いつつ鮮明な像を表示するためには光学系に分散補償系を付加する必要がある。我々は,図3に示されるような,HOEに分散補償系を結合した虚像ディスプレイの光学設計を提案している。提案光学系では,プロジェクタと回折格子(DOE)により,HOEによる波長分散を打ち消すような逆向きの波長分散像を拡散板に表示する。これにより,HOEスクリーンの波長分散を光学的に補償し,表示虚像を鮮鋭化する。
提案虚像ディスプレイの実証実験結果を図4に示す。HOE(虚像スクリーン)のサイズは14 cm×14 cm,スクリーン-虚像間の距離は60 cmとした。実験の結果,分散補償の効果が良好に確認され,分散による分解能低下の回復が実証された。現在,HOEの波長多重露光を中心とした虚像ディスプレイシステムのカラー化,及びスクリーンサイズのA4化に取り組んでいる6)。
虚像ディスプレイのプロジェクタをカメラに代えた場合,「虚像カメラ」が実現可能である。「虚像カメラ」とは,図5のようにカメラの虚像が被写体を正面から撮影する撮像系である。カメラの実体は軸外の別の場所に存在するため,被写体にカメラデバイスを視認されること無く,被写体の正面撮影を実現できる。虚像カメラにおいても虚像ディスプレイと同様の理由で分散補償系は必要である。我々は,撮像光量の増加のために前述の分散補償用拡散板をレンズに置き換えた分散補償方法を提案し,実証している5)。また,分散補償系を含めた光学系全体のさらなる薄型化のために,我々はオフアクシス鏡HOEをホログラフィック導波路と画像復元処理の組み合わせに置き換える手法も提案している7)。