光デバイスの超高密度実装を可能とするFGHP®テクノロジー

2. FGHP®テクノロジーによる社会貢献へのみちのり

2.1 FGHP®の開発経緯と特長

筆者がFGHP®の開発に参加したのは,FGHP®が産声を上げて間もない14年余り前にさかのぼる。当時,鹿児島地元企業である渕上ミクロ社代表の上田社長(いずれも,当時)が,ある講演会で「これからの半導体産業は,熱とノイズへの対処が重要となる」ということを聞かれたことがきっかけとなり,FGHP®の開発がスタートした。当初,FGHP®開発メンバーに熱関係のエンジニアがおられなかったため,ひょんなことから筆者にお声を掛けて頂き,開発に参加させて頂けることとなった。開発においては,鹿児島県や九州経済産業局,経済産業省,JSTなど,様々な公的支援を頂けたことにより,種々の開発に成功し,全体として30件程度の特許取得にもつながった。その開発によって実現されたFGHP®の主な特長は下記のとおりである。

・熱源面積基準の熱抵抗は,これまで報告されているベーパーチャンバーの中で最も小さく,世界一の性能を実現1)
・面方向の熱伝導率は受熱部温度とともに増加し,受熱部温度が90℃程度になると銅の約25倍である10,000 W m–1 K–1を超え,非常に高い熱伝導率を達成2)(2019. 1現在のチャンピオンデータ)
・設置姿勢による伝熱性能の変化がなく,立てた状態でも,効果的に冷媒が循環3)

・耐熱性が高く,リフロープロセスを用いた部品実装が可能

図1 FGHP®-COBを用いた照明と従来型照明との比較(Cannon製デジタル一眼レフカメラ(EOS-Kiss X5)で固定露光・シャッタースピードにて撮影)
図1 FGHP®-COBを用いた照明と従来型照明との比較
(Cannon製デジタル一眼レフカメラ(EOS-Kiss X5)で固定露光・シャッタースピードにて撮影)
2.2 LED照明の省エネ化で社会に貢献するFGHP®

このように数々の長所があるにもかかわらず,FGHP®開発当時は今日ほど発熱密度が高くなく,発熱密度の高さに起因する信頼性の問題もまだあまり顕在化していなかったため,FGHP®の事業化は困難を極めた。そこで,FGHP®によって社会に貢献するためには,自らFGHP®によってのみ実現されうる機器を開発して,その有用性を示すしかないのではないかとの状況に至った。その思いを強力に御支援頂いたのがNEDO若手グラントであった。

平成23年度,NEDOの若手研究者支援プログラムである「先導的産業技術創出事業(拠点連携タイプ)」での御支援のもと,北九州学術研究都市をはじめ,様々な企業の方々からも御協力を頂けたことによって,ようやく超高輝度LED水中灯の開発に成功した4)。当該開発においては,FGHP®を実装基板として用いることによって,LEDパッケージの高密度実装化に成功し,高輝度化を実現した。鹿児島大学水産学部安樂先生御協力のもと,水中における分光放射照度を測定した結果,FGHP®光源基板を用いた170 Wの水中LED照明は,4 kWの白熱灯とほぼ同じ強度の光刺激を魚に与えることが可能であるとわかった。

すなわち,FGHP®を用いることによって,水中集魚灯分野において95%以上の省エネルギー化を実現することが可能となった。さらに,その成果をシーズの一部として,四国計測工業社は,平成24年度のNEDO戦略的省エネルギー技術革新プログラムにおいてFGHP®を用いたLED-COB基板を開発し,超高輝度・大光量の省エネ型LED照明(投光器・高天井照明)の開発に成功した5)。なお,開発されたLED照明は,平成29年度の省エネ大賞「省エネルギーセンター会長賞」を受賞し6),省エネ性能の高さが広く認められることとなった。

このように,FGHP®をコアとしたテクノロジー群により実現されるLED照明の省エネルギー化によって,ようやくFGHP®テクノロジーが社会へ貢献することが可能となった。

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