すなわち,大光量LED照明分野において真の省エネルギー化を実現するためには「明るい」LED光源が必要であり,そのためには,高い実装密度に起因する高い発熱密度に対応可能な放熱技術が必須である。
高い発熱密度のもとで温度上昇を抑制するためには,LEDから発生する熱を効果的に「散らす」(=熱を拡散する)ことによって発熱密度を低減する必要がある。熱を散らすために従来用いられてきた技術としては,金属製のヒートスプレッダや放熱シートがある。しかし,金属製のヒートスプレッダでは,もはや必要とされるだけの熱拡散性能を実現することができなくなっている。また,放熱シートとしてグラファイト系の素材を用いたものなどは,面方向の熱伝導率が銅の5倍以上となる2,000 W m–1 K–1を達成したものなどもあるが,このような高い熱伝導率をもつグラファイトシートは総じて厚みが小さく,大量の熱を拡散させなければならない大光量LED光源には適さない(面方向の熱抵抗は厚みに反比例するため,厚みが薄いと熱抵抗を十分に低減できず,大量の熱が移動する際の温度抑制が困難となる)。
このような背景から,近年,熱拡散性に優れたベーパーチャンバーの重要性がますます高まっており,世界中で盛んに研究開発がなされている。ベーパーチャンバーとは,内部に封入した冷媒の蒸発・凝縮サイクルによって潜熱を輸送する伝熱部材である。ベーパーチャンバー内部には不活性ガスが無い状態で冷媒が封入されているため,大気中に比べて冷媒の沸点は低い。このため,ベーパーチャンバーの受熱部へ外部からわずかな熱が与えられるだけで,内部の冷媒は容易に気化する。冷媒の気化によって生じる圧力差により,冷媒蒸気はベーパーチャンバーの隅々までいきわたり,放熱部に達する。放熱部において熱を外部に放出することにより,冷媒は凝縮する。結果的に,受熱部において受け取ったときよりも低い熱密度で外部へ均一に熱を放出することが可能となり,温度の上昇が抑制される。凝縮して液に戻った冷媒は,重力や毛細管力によって受熱部へと帰還し,次のサイクルへとつながっていく。
このようなベーパーチャンバーの性能を決定づける主な要因として使用する冷媒の種類と内部構造が挙げられるが,大光量LED光源などに代表されるハイパワー分野に用いられるベーパーチャンバーの冷媒はほぼ全て水であるため,実質的には内部構造が性能を支配する主要因である。
本稿では,筆者が企業の方々と共同開発してきたベーパーチャンバーであるFGHP®(Fine Grid Heat Pipe)について,開発経緯や特長などとともに,FGHP®テクノロジーが,どのようにして社会貢献を実現することができたのかについて紹介する。