3. 防災においての「見える化」へ向けて
著者らは,このようなPOFの特徴をひずみセンシングへ生かす検討を行なっている。冒頭で述べたように既存技術でカバーが難しい廉価なモニタリングを目指すという意味でも,POFの扱いやすさが死んでしまうような複雑なアクセサリが必要な技術目標ではなく,可能な限りシンプルなシステムが望ましい。そこで,当研究室では,POFの大口径を生かした,①環境光の二次利用と②端面色を肉眼で確認する検知法を提案している12)。
図1(a)に示すような波長関係を持つ発光体ペアを使用する。この発光体ペアは,より短波長で励起発光アクティビティが行われる発光体(以下,ドナーと呼ぶ)の放出光がもう一方の発光体(以下,アクセプター)の励起に利用できるような波長関係であるものを選定する。ドナーの励起は将来的に環境光で賄うことを理想とし,太陽光や照明にある程度豊富に含まれる成分が望ましい。図1(a)でドナーの例として示したCoumarin 540AはPMMA中に分散させた場合460 nm付近に吸収波長帯をもち,白色LED光源内の青色成分に良く合致する。
また,肉眼検知を見据え,アクセプターの発光が可視光域に収まるようなものを選定する。これらの発光体のペアをそれぞれドナーをコアへ,アクセプターをクラッドへ,という構成でPOF中に分散させる。図1(c)はコアにのみ発光体を分散させた1メートルのPOFの出射端の見え方である。図中,左側より,徐々にファイバーに全長40センチほどの平板経由で応力をかけた際の端面の変化を表している。通常,この程度の平板経由の応力では,定常モード状態の光ファイバーの出射光強度が大幅に減少することは無いが,色素を添加すると伝搬光が指向性を失うため,図のように容易にリークを起こすことができる。さらに,クラッドに前述のアクセプターを含有させることにより,このリーク光を受けてクラッドを別色で発光させることができる。
図2にその様子をスペクトルで示す。この測定例では応力の強度を光ファイバーの曲げに見立てているが,アクセプターの発光強度が応力(ループのきつさ)に応じて時徐々に上昇する様子がわかる。このケースでは,利用している光ファイバーはクラッド外形1ミリであるが,端面の視認という観点から,さらなる大口径化を踏まえた検討を行なっている。また,実用化へ向けては応力によるアクセプター発光のさらなる顕著化を進める必要がある。よって,現在は,蛍光体ペア,光ファイバーの母材,開口数などの導波路パラメーターを探索し,応用展望に合った感度や耐久性などを提供すべく検討を行なっている。
最後に,本技術の応用先として,具体的に検討しているケースをいくつか紹介する。まず一例として,シールドトンネルへの適用を焦点に開発を行っている(図3)。シールドトンネルは,掘削と同時にその穴の壁面をセグメントと呼ばれるトンネルの外壁に相当するブロックを組み上げながら施工される。一般的にトンネルは掘削中の事故リスクが高く,とくにシールドトンネルの場合は,セグメントの不整合は土砂流入などの危険を招く可能性がある。本案では,トンネル自体のひずみによって引き起こされる出射光の色変化に加え,セグメントの軸ずれや破壊を消光(すなわちファイバーの分断)という形で肉眼検知できる技術を目指している。
その他,土留工事の矢板などへの適用も検討している。山留工事とは,掘削が必要な作業においての掘削壁の固定を意味する。それぞれのケースで最適な工法が選定されるが,予測外の地下水の発生などに影響され,シミュレーション通りに壁面が安定しない場合も有りうる。そのようなシーンにおいて,矢板の変形を現場の作業者が体感的に検知する方法があれば,事故防止と工事の計画的執行に有効であると考えられる。当研究室では,このような応用を見据え,ポリマーもしくはエラストマーなどを母材とする光ファイバーセンサー構造を矢板内部に横断的に導入する方法などを模索している。コンクリートや鉄鋼などと材料的に相性の良いセンサーが開発できれば,この視認検知式を擁壁のモニタリングなどにも用いることができると考える。