4. 知覚織物による生体情報のモニタリング
4.1 知覚織物の基本特性
図5(a)にヘテロコア光ファイバを用いた織物の構造図を示す11, 14)。図5(a)より,ヘテロコア光ファイバは横糸として平織で直接織られており,ヘテロコア部は織物の中央に配置されている。図5(b)に織物の断面図を示す。図5(b)より,ヘテロコア部分が経糸によって曲率が付与される構造になっている。この構造の織物に対して伸縮や曲げ・荷重を付与することにより,ヘテロコア部に加わる曲率は変化する。そのため,織物自体の形状変化を光強度変化によって検出可能である。図5(c)に,織物への伸縮に対する光損失応答を示す。図5(c)より,織物に縦方向の伸縮を付与すると応答することが確認された。一方,伝送路に対して平行方向(横方向)の伸縮については,ヘテロコア部分に付与される曲率が変化しないため,応答しないことが示された。次に,織物への曲げに対する光損失応答を図5(d)に示す。図5(d)より,ヘテロコア部が曲がる縦方向の曲げを検出可能なことを確認した。
4.2 脈拍モニタリング
織物を用いた生体情報のモニタリングへの応用例を紹介する。3項と同様の実験装置を用い,織物を手首に配置し,脈拍のモニタリング試験を行った。図6に,脈拍に対する光損失応答結果を示す。図6より,0.04 dB程度の振幅値で僅かな拍動を捉えていることが確認できる。このように,生体情報によって生じる伸縮や圧力が,埋め込まれたヘテロコア部分に対して加わることで目的とする情報を検出できる。また,織物は衣服の一部として用いることが出来るので,着用物自体の形状変化を利用した生体情報や身体動作モニタリングの実現が期待できる。
5. まとめ
本稿では,ヘテロコア光ファイバセンサを用いた知覚機能素材とその生体情報センシングへの応用例について紹介した。柔軟なテープや織物にヘテロコア光ファイバを埋め込むことにより,伸縮や曲げといった形状変化に対して感度を持った知覚機能素材を実現した。この知覚機能素材を皮膚に直接貼る,または接触させることで無拘束に身体動作や生体情報をモニタリング可能な事を示した。本技術は医療・福祉・スポーツ等の分野において応用が期待される。また,他の用途としては,テープを椅子に張り付ける,織物を絨毯の一部に用いる等により,人間の生活空間内に違和感なくセンシング機能を追加することが可能と考えられる。
謝辞
本研究の一部はJSPS科研費JP17K18185の助成を受けて行った。