1. はじめに
従来研究で用いられる光ファイバセンサにFBG(Fiber Bragg Grating)やPOF(Plastic Optical Fiber)が挙げられる。まず,FBGセンサは,波長シフト量を計測することにより,周期的な屈折率変調を有するセンサ部に付与された歪みや温度の計測が可能である。このFBGを埋め込んだ樹脂のシートを衣服に張り付け,着用者の呼吸や心拍の計測が可能である2)。
しかし,温度補償の課題に加え,シートは衣服の繊維とは独立した素材であり,着用する際の快適性を損なう恐れがある。より違和感の無いモニタリングのためには,光ファイバを衣服の素材に直接埋め込むことが望ましいと考えられる。一方,POFは伝送路上の曲率変化によって透過光が損失する。これを繊維と共に織り込み,マットや着用物に用いることによって,人間の状態を光ファイバ伝送路における透過光強度変化でモニタリング可能である3, 4)。しかしながら,マルチモード伝送のためセンサ部分以外での伝送路上における曲げによる外乱の影響を受ける。
筆者らが研究開発を行っているヘテロコア光ファイバセンサ5)は,センサ部における緩やかな曲率に対して伝搬光量が漏洩する。さらに,シングルモード伝送を用いる事が出来,センサ部以外での伝送路では外乱の影響を受けにくい。このヘテロコア光ファイバを柔軟な繊維の中に埋め込むことで,無意識かつ無拘束な知覚機能素材の実現が期待できる。本稿では,シングルモード伝送のヘテロコア光ファイバセンサを医療用テープや布に埋め込んだ新たな生体情報のセンシング方法を紹介する。
2. ヘテロコア光ファイバ
図1にヘテロコア光ファイバセンサの構造図を示す。ヘテロコア光ファイバは通信用光ファイバ伝送路上にコア径の異なる光ファイバを挿入・融着することによって作製される。このコア径の異なる部分をヘテロコア部と呼んでいる。ここでは伝搬光の一部が漏れているが,ヘテロコア部を含む光ファイバ伝送路を曲げると,光の漏れ量が鋭敏に増加する。この原理に基づき,ヘテロコア部への曲げを光強度によって検知可能である。
そのため,曲げを変換する機構を外部にモジュールとして作りこむことによって,変位や圧力といった物理量を光強度変化のみによって検出可能である。さらに,コア径の組み合わせによってシングルモード伝送を用いることが出来るため,センサ部分のみにおいて曲げに対して感度を持たせることが可能である。これまで我々はヘテロコア光ファイバを用いた生体情報や身体動作のモニタリングについての研究開発を行ってきた6〜9)。これを医療用テープや衣服材料の繊維といった柔軟な素材に埋め込むことで,モノ自体にセンシング機能を融合させることができると考えられる。