5. 1段階法によるペロブスカイト薄膜の作成
これまで二段階法によりペロブスカイト薄膜を成膜してきたが,2段階法ではプロセスが多いので成膜時間が長くなり,又パラメーターが複雑になるという問題がある。
そこで高沸点(286℃)・低蒸気圧(7 Pa, 25℃)の1-シクロヘキシル-2-ピロリドン(CHP)16)をDMF溶媒に少量添加して溶媒蒸発速度を制御することによりアンチソルベント法を用いること無く,1段階法で緻密で均一なペロブスカイト薄膜の成膜を目指した。先程の二段階法で太陽電池特性が最も良好であったFA0.8Cs0.2PbI3を対象とした。1 mol/L FA0.8Cs0.2PbI3DMF:CHP(CHP=0, 3.5, 7.0, 14 vol%)溶液をGlass/FTO/TiO2基板上に4000 rpm,50秒でスピコートし170℃で10分アニールしたSEM像が図8となる。
CHP 0 vol%では多数の空孔や凝集体が見られるが,CHPの最適添加量7.0 vol%で空孔がなく緻密な多結晶薄膜が得られた。更にCHPを増加させた14 vol%では多数の空孔が見られた。CHP 7.0 vol%の溶液から成膜したペロブスカイト薄膜を二段階法と同様の構造のペロブスカイト太陽電池に適用したところ逆方向でVOC 1.08 V,JSC 19.1 mA cm–2,FF 0.69,PCE 14.2%,順方向でVOC 0.978 V,JSC 18.9 mA cm–2,FF 0.498,PCE 9.20%と二段階法とほぼ同等の性能が得られた。
しかしながら多結晶薄膜の粒径は数百nmに留まっており,より大粒径な膜のほうがキャリア輸送の障害や劣化原因となる粒径境界が減少するため大粒径で緻密な膜が望ましい。そこでLewis酸であるチオセミカルバジド17)とCHPを併せて用いることにより図9の粒径が数μmの大粒径かつ高結晶性のFA0.8Cs0.2PbI3薄膜が得られた。
6. まとめと今後の展望
前駆体として多孔質PbI2–(CsI)x 薄膜を用いFAI溶液と反応させることにより未反応のPbI2 が存在しない緻密なFA1–x Csx PbI3薄膜を成膜した。これを平面ヘテロ接合型太陽電池に応用したところx = 0.2で最高性能が得られ逆方向スキャン時に光電変換効率14.7%が得られた。また高沸点・低蒸気圧の1-シクロヘキシル-2-ピロリドンを適量添加することにより一段階法で均一かつ緻密なFA0.8Cs0.2PbI3薄膜を作製し,こちらも光電変換効率として14.2%と2段階法とほぼ同等の特性が得られた。現在,2種類の添加剤を用いて粒径がμmサイズと大粒径かつ高結晶性のFA0.8Cs0.2PbI3薄膜が得られており,界面の修飾等による太陽電池の高性能化とカーボン電極を用いた完全塗布型太陽電池の作製を目指している。
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■Saitama Unversity, Graduate School of Science and Engineering
所属:埼玉大学 大学院理工学研究科 物質科学部門 助教
(月刊OPTRONICS 2017年11月号)
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