3. 有機・無機ペロブスカイト薄膜の成膜手法
如何に均一で結晶性の良いペロブスカイト薄膜を作製するかが,ペロブスカイト太陽電池の特性を大きく左右する一因である。ペロブスカイト薄膜の成膜手法としてはドライな真空蒸着法,ウェットプロセスの1段階法・2段階法などがある。真空蒸着ではウェットプロセスでは困難な精密な膜厚制御やヘテロ積層構造の作製などが期待されるが,一般的にアミン化合物は蒸気圧が高いため,抵抗加熱時の蒸着レートの制御が極めて難しい問題がある。
有機無機ペロブスカイトABX3をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルスルホキシドなどの良溶媒に溶解し,スピンコート及びアニールにより薄膜を得るのが一段階法だが,後述するアンチソルベントを用いないと多数の凝集体や空孔がある膜となる問題がある。一段階法で図2(c)のようにスピンコート中にクロロベンゼンやトリフルオロメチルベンゼンなどの貧溶媒をスピンコート最中に滴下するアンチソルベント法12, 13)と呼ばれる手法により緻密かつ平坦な多結晶薄膜が得られているが,この手法は技量を必要とし,また大面積化には向いておらず,更に環境負荷の高い溶媒を大量に使用するという問題がある。
二段階法は最初にBX2薄膜を成膜し,AX溶液と反応させてABX3薄膜を形成する手法で,プロセス数が増える問題は有るものの比較的容易に均一な膜が得られる方法である。
筆者らはFA1–x Csx PbI3を二段階法で成膜し平面ヘテロ接合型太陽電池へ用いており,更に添加剤を用いて1段階法でFA1–x Csx PbI3薄膜を簡便に得る手法を開発した。
4. 二段階法によるペロブスカイト薄膜の作成
2段階法でFA1–x Csx PbI3薄膜の成膜を試みる場合,以下の2ルートが考えられる。
PbI2–(CsI)x (thin film)+FAI(solution)→FA1–x Csx PbI3(thin film) ⑵
CsIは,FA1–x Csx PbI3を溶解するDMFやメタノールに可溶であるが,FA1–x Csx PbI3を溶解しない2-プロパノールには不溶であるので⑵のルートを採用した。
またペロブスカイト太陽電池は透明酸化物導電膜(TCO),電子輸送層(ETL),ペロブスカイト層,正孔輸送層(HTL),金属電極からなるが,その配置は図3に示す色素増感太陽電池由来のナノ構造型,平面ヘテロ接合型,有機薄膜太陽電池由来の逆構造型の3種類に大別出来る。
ナノ構造型の場合には多孔性酸化物の影響でPbI2–(CsI)x 薄膜の表面積は大きくなり,FAI溶液との反応は進行しやすいが,より単純な構造の平面ヘテロ接合型と逆構造型の場合,FAIが緻密なPbI2–(CsI)x 膜深くまで浸透して完全に反応し難い事が予想され(図4),DMF溶媒に4-tert-ブチルピリジン(TBP)を添加して,PbI2–(CsI)x -TBP錯体を一旦形成した後,熱アニールによる錯体の分解により生じる多孔性でFAI溶液との反応性の高いPbI2–(CsI)x 薄膜を用いた14)。