6. おわりに
以上で述べたように,われわれはコスト的に安価で,既存CMOSプロセスと親和性を持つシリコンを材料とした赤外光検出器の研究開発に取り組んでいる。本項では,シリコンを利用した赤外光検出器の技術を紹介した。これは,ナノサイズの金アンテナ構造を利用して光吸収を促進し,アンテナに構成された金属・シリコンのショットキー障壁を利用して,光を電流検出するという特徴を有している。現時点で,詳細なデバイスの動作については未解明の部分を残しているものの,近赤外光~中赤外光の検出能力を確認し,検出器単体の解析は進んでいる。しかし,シリコンを材料として利用するメリットが本領を発揮するのは,システムとして回路と統合したときである。今後は,実用的なシリコンベースの赤外カメラ受光部の構築を図るために,システム化方向の研究開発に注力する予定である。
今回紹介したのは光検出器なので,ブロードな光吸収特性を持つ,局在表面プラズモン共鳴を生じる光共鳴構造を利用した。一方で,共鳴がシャープな構造を利用すれば,ある特定の波長のみで表面プラズモン共鳴を電流検出できるセンサデバイスを構成することができる。筆者らは,共鳴特性がシャープな回折格子上の表面プラズモン共鳴を利用して,単一波長ごとの光強度を電流検出することによりスペクトルを計測可能な小型MEMS分光器の研究開発も進めている5)。本項で紹介した技術は,共鳴構造などの工夫により,光検出器に限定されず多彩なセンシング用途への応用が可能であるので,その魅力を多くの方々に知っていただきたいと考えている。
謝辞
本研究はNEDOエネルギー・環境新技術先導プログラム事業の委託研究として行ったものである。
2)Y. Ajiki, T. Kan, M. Yahiro, A. Hamada, J. Adachi, C. Adachi, K. Matsumoto, and I. Shimoyama: “Silicon based near infrared photodetector using self-assembled organic crystalline nano-pillars”, Applied Physics Letters, Vol. 208, Art. No. 151102 (2016)
3)安食嘉晴,菅哲朗: “Au/Siナノアンテナを用いた近赤外光シリコン光検出器,” 電気学会論文誌E部門(採択済)
4)T. Kan, Y. Ajiki: “Silicon Based Mid-Infrared Photodetectors Using Plasmonics Gold Nano-Antenna Structures,” Proceeding of the 19th International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems (Transducers 2017), pp. 2159-2162, Kaoshiung, Taiwan (June, 2017)
5)W. J. Chen, T. Kan, Y. Ajiki, K. Matsumoto, and I. Shimoyama, “NIR spectrometer using a Schottky photodetector enhanced by grating-based SPR,” Optics Express, vol. 24, no. 22, pp. 25797-25804 (2016)
■①The University of Electro-Communications, Graduate School of Informatics and Engineering, Associate Professor ②Micromachine Center
所属:一般財団法人マイクロマシンセンター
(月刊OPTRONICS 2017年10月号)
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