光検出磁気共鳴法を用いたワイドギャップパワーデバイスの量子センシング

図4(b)は実験的に求めた電界強度を印加電圧に対してプロットした図である。未知である結晶歪みの方向をエラーとして含めている。また,比較としてデバイスシミュレーション(Sentaurus, TCAD)による電界を示してある。30 Vの核スピン±1ではシミュレーションと大きな差がある。これは,上式からわかるように,核スピン±1は低電界において非線形の影響が強く出るためだと考えられる。したがって,低電圧では核スピン0の共鳴点からより正確な電界を求めることができる。印加電圧150 Vにおいて,電界は約350 kV/cmに到達しており,これはNVセンターで検出した中で最も高い電界である。NVセンターによる実験から求めた電界強度と,シミュレーションは良く一致していることがわかる。よって,NVセンターを用いた量子センシングにより,これまで困難であった高電圧動作パワーデバイス内部の高空間分解能な定量電界計測を実現した。

これまでの研究ではシンプルなデバイス構造においてNVセンターによる内部電界計測を示した。将来的には,本計測手法は正確なシミュレーションが困難な状況(例えば,予期せぬ電界集中,ブレイクダウン,さらに高いリーク電流が伴うとき)にも適用できる可能性を有している。さらに,アレイ状の複数のNVセンター24, 25)および超解像計測26〜28)を組み合わせることで,より複雑なデバイス構造29〜31)の電界分布イメージングへの展開も期待できる。また,電界のみならず,パワーデバイスにとって重要な温度やリーク電流計測も期待できる。

最後に,蛍光を示す発光構造はダイヤモンドやSiC以外にも多くのワイドギャップ材料中に形成できることに言及する。例えば,GaN32),AlN33),h-BN34)では発光が観測されており,c-BNにおいてもNVセンターと似た発光センターの存在が計算により予測されている34)。よって,構造形成およびスピン状態制御を進展されることで,様々な材料中でのセンシング実現が期待できる。

謝辞

本研究はJST-CRESTおよび公益財団法人東電記念財団の助成により実施しました。

参考文献

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