4. 試作複屈折プロファイラーによる観察例
本節では,試作した複屈折プロファイラーの有効性を紹介するため,様々な複屈折媒体を観察した結果を紹介する。図5~図8に測定結果について,縦軸・横軸はカメラの画素数を,カラーバーは複屈折位相差[rad]をそれぞれ表している。
まず,我々提案している回転操作不要の2次元複屈折分布の測定を実証するために砂糖の微結晶を観察した。ガラス基板上でランダムに成長した微結晶であり,結晶軸は面内でランダムに生じている。従って,偏光顕微鏡などを用いた観察などでは被測定物を回転させて随時データを収集した後に,データ処理を行って定量的な複屈折位相差の分布を求めることになる。
一方で,我々の複屈折プロファイラーを用いると,図5に示すように様々な方向を向いたすべての結晶がワンショットでイメージングでき,面内の微結晶の分布を明らかにすることができる。このように複屈折を有する部分が明るく,それ以外の部分は暗くイメージングされるため,面内の結晶の分布を把握することが可能となる。このことは被測定物の実態における直感的な理解を強くサポートするものと期待できる。
次に,複屈折位相差の高精度・高解像測定が重要な役割を示すと考えられる透明機能性フィルムの評価観察結果を示す。図6はポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの観察例で,上段はそれぞれ図6(a)無延伸,図6(b)一軸延伸,図6(c)二軸延伸の3種類のPETフィルムを示している。この結果より,延伸前のフィルムは均一性が無く検出される複屈折値は小さいが,延伸処理を行うことで,均一で複屈折の大きなフィルムが得られていることがわかる。高分子フィルムを延伸処理すると分子配向が生じ,この状態から加熱・加圧処理することで結晶化して機械的特性に優れたフィルムが得られることになる。更に,現在の機能性フィルムは様々な表面処理が施されており,これによる違いも図6下段のようにイメージングすることができる。
図6下段はいずれも厚さ12μm程度のPETフィルムであるが,図6(d)は表面処理無し,図6(e)はつや消し処理,図6(f)は塩化ビニルコート,がそれぞれ施されている。本複屈折プロファイラーによる観察結果は,これらのフィルムの処理条件に応じた特徴を明確に画像化できていると考えられる。従って,原反フィルム製造過程のインライン検査で,複屈折位相差や均一性を随時評価し,製造プロセスへのリアルタイムのフィードバックを行うシーンにおいて,我々が提案している複屈折プロファイラーが有効な測定器あるいは評価装置として利用できると考えられる。
高分子フィルム同様に複屈折を発現する高分子素材が化学繊維である。紡糸の段階で分子が配向しているため顕著な複屈折を発現する。図7には,釣り糸などに用いられるテグスと,そのような繊維を編んで作られるストッキング素材の観察結果を示す。いずれもナイロン繊維からなる。紡糸の分子は一軸配向しているため,図7(a)のように偏光顕微鏡で観察した場合,面内で様々な方向を向いた繊維について,明るく観察できる部分と暗くなってしまう部分が混在することになる。
一方で本複屈折プロファイラーを用いると,図7(b)および図7(c)のように,すべての繊維を同時に観察することができる。これらの結果から,特に化学繊維からなる布地など,複雑に複屈折が分布する被測定物の評価において,本複屈折プロファイラーが適していることが示唆された(ただし,ストッキング素材のような散乱性のある測定対象については,空気との屈折率差を緩和するために,透明樹脂に包埋して観察している。より簡便にはマッチングオイルを用いることができる。)。
最後に,いくつかの食品等の観察を行った結果を示す。図8(a)は,フルーツの食感を加えるためにゼラチン質を添加したゼリー状の菓子の表面部分を観察した結果である。複屈折を持つ繊維状の物質が添加されていることが確認できる。図8(b)はエビの殻を観察した結果であり,明確に複屈折を発現していることが確認できる。この複屈折イメージは水分の含有量と関係しており,実際に食する部分ではないが,鮮度の評価につながる可能性があるため今後の展開が期待できる。