5. 今後の展望とまとめ
ゴーストイメージングでは,低侵襲な計測法としての注目が高い。計算機ゴーストイメージングも同様の特性を有する。この特性から,生体,医用応用や,検査技術への応用が期待されている。実用性の観点から,再構成画像の画質を向上させることは,必須の重要課題のひとつである。画質を向上させるための手段として,圧縮センシングなど,画像復元のためのディジタル処理による取り組みが挙げられる。
一方,計測照射分布の自己相関関数をスペックル理論における統計特性に近づけることも再構成画像の画質向上につながる。そのためには,スペックル照射分布が多いほどよい。したがって,図3に示す光学系を用いて計測を高速化し,1枚の画像をえるために用いる計測データを増やすことは有効である。高速化と高画質化の両方を進めていくためには,異なる照射分布が互いにランダムであることが必要である。以上を踏まえ,今後の研究開発において,計測系の改良を軸に,高性能化に取り組む予定である。
アダマール変換に基づくSPIにおいては,現状における画素数は少なすぎ,その高精細化が求められる。高精細化に関しては,現状で信号処理における計算量の制約も大きい。ディジタル信号処理においては,並列処理の利用,アルゴリズムの改良や,実装まで,様々な改良が進むことが予想される。また,アダマール変換以外の照射(変調)を用いる方法に関しても,進展があるかもしれない。筆者は,光情報処理の観点から,光学処理を含めた改良により高精細化を実現することをめざす。
計算機ゴーストイメージングと,圧縮センシングを用いた単一画素計測については,画像再構成の原理が異なる。また,前者では,コヒーレント光を用いる必要があるのに対して,後者では,インコヒーレント光を用いてもよい。一方,用途によっては,類似した計測技術として,位置付けられる。イメージング技術として,両手法を比較できる共通の評価指標に関しても検討することを考えている。
2)Y. Bromberg, O. Katz, and Y. Silberberg, “Ghost imaging with a single detector,” Phys. Rev. A 79, 053840 (2009).
3)D. Pelliccia, A. Rack, M. Scheel, V. Cantelli, and D. M. Paganin, “Experimental X-Ray Ghost Imaging,” Phys. Rev. Lett. 117, 219902 (2016).
4)D. Shrekenhamer, C. M. Watts, and W. J. Padilla, “Terahertz single pixel imaging with an optically controlled dynamic spatial light modulator,” Opt. Exp. Vol. 21, pp. 12507-12518 (2013).
5)M. F. Duarte, N. A. Davenport, D. Takhar, J. N. Laska, T. Sun, K. F. Kelly, R.G. Baranuik, “Single-Pixel Imaging via Compressive Sampling,” IEEE Signal Processing Magazine, Vol. 25, pp. 83-91 (2008).
6)仁田 功一,“計算機ゴーストイメージング-散乱光照射と1画素検出による画像化法”,レーザー研究 Vol. 41, pp. 996-1000 (2013).
7)C. Kitada, K. Nitta, and O. Matoba, “Experimental verification for a method for computational ghost imaging with laser array modulation,” 2nd Biomedical Imaging and Sensing Conference (BISC’16), BISCp6-40 (2016).
8)仁田 功一,林 真二,的場修,“アダマール変換イメージングにおける撮像系の開発”,“第63回応用物理学会春季学術講演会”,21p-S224-10 (2016).
9)O. Katz, Y. Bromberg, Y. Silberberg, “Compressive ghost imaging,” Appl. Phys. Lett. 95, 131110 (2016).
■Department of Systems Science Graduate of System Informatics, Kobe University
所属:神戸大学 大学院システム情報学研究科 准教授
(月刊OPTRONICS 2017年4月号)
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