4. QD-SLDの発光特性評価とOCT画像取得
作製した2種類のチップ(QD-SLD1, 2)からのELスペクトル特性を図4に示す。測定はすべて室温で行った。注入電流量の増加とともに,発光中心波長が短波長にシフトしながら,スペクトル形状が徐々に変化した。これは,注入電流増加によりstate-filling効果によってQDのGS間発光が飽和し,ES間発光強度が徐々に増加したためと考えられる。
単電極構造のSLD(QD-SLD1)では電流密度が400 A/cm2程度で発光強度,帯域とも飽和し,最大帯域は約85 nmであった。一方,分割電極構造を有するQD-SLD2は電流密度が3000 A/cm2程度まで発光強度,帯域が増加し,最大帯域は約120 nmであった。これらの結果からQD-SLDの広帯域特性が示され,さらに分割電極構造を用いることで,より高次の準位(ES2)間の発光を引き出せていると考えられる。また,いずれのスペクトルにも大きなディップは見られず,多波長QD積層によるスペクトル成形効果も得られていることが分かった。
次に,QD-SLDをOCT光源として使用した際の性能を評価するため,作製したSLDチップをファイバー結合モジュールとし,SD-OCTシステムに導入した。独自に立ち上げたSD-OCT6)を用いて得られた干渉光スペクトルを逆フーリエ変換し,光軸上の反射光強度の空間分布を取得した。図5に,サンプルをミラーとして各光源にて取得した干渉光スペクトルと反射光強度分布を示す。
この反射光強度分布で見えるピークは光源の点広がり関数(PSF)であり,PSFの半値幅からOCTの光軸分解能を見積もることができる9)。QD-SLD1, 2の分解能はそれぞれ約7.8,4.9 μmと見積もられ,比較のために用いた一般的な市販SLDの14 μmを上回る分解能が得られた。さらに,PSF形状は単峰性であり,顕著なサイドローブが発生していないことから,光源のスペクトル形状制御の有効性も確認できた。
各光源を導入したSD-OCTシステムにより,テストサンプルとして厚さ約150 μm,屈折率約1.5のカバーガラスのOCT画像を取得し,比較した(図6)。プローブ光はカバーガラス面に対して垂直に入射し,面内方向に走査することで2次元の断面画像を得ている。画像内に白く見える2本の線はカバーガラスの表面と裏面に相当する反射光強度分布である。
断面プロファイルで示されるように,2本の線の間隔は223 μmであり,カバーガラスの厚みに屈折率を乗じた値(約225 μm)にほぼ一致する。OCTでの光軸上の距離は光学距離であるため,この結果は妥当と言える。また,断面プロファイルのピークの半値幅は各光源の分解能を反映しており,QD-SLD光源によるOCT画像の高分解能化が示された。