4. 固体異種材料間の光接着法
近年,エレクトロニクスにおけるデバイスの小型化・集積化の勢いに陰りが出てきた一方で,デバイス技術の新たなマーケットとして,センサーやMEMSデバイスの大規模普及の取り組みが精力的に行われている。そこでは,新たな利用分野に応じて,材料にもそのトレンドに変化が現れてきている。例えば,有機エレクトロニクス材料や,ウェアラブル・インプランタブルなデバイスに求められるソフトで生体適合性の良いエラストマー素材など,様々な高分子材料が注目を集めている。
ところで,このような高分子材料を集積化してデバイスを作製する場合,微細構造の包埋や熱ダメージが生じぬよう,接着剤や熱溶着を使用しない接合が望ましい。一部では,真空中のプラズマや大気プラズマを利用した接合例があるものの,様々な活性ガス種や放電等の影響でデバイスにダメージが入るなど,解決しなければならない技術課題も多いため,広く利用されているとは言いがたい状況である。
そこで我々は,接着剤や熱を使用しない,かつプラズマよりもマイルドなVUV光による表面励起を利用した固体間直接接合(光接合法)に関して研究を進めている。ここでは一例として,シリコーン樹脂の一種であるポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane:PDMS)の接合例を紹介する5)。
シリコーンゴムは,透明かつ化学的に安定な優れた特徴があることに加え,真空中における酸素プラズマ照射によって表面を改質することにより,シリコーンゴム同士,あるいはガラスやシリコンに対して直接接合できることが知られており6, 7),シリコーンゴムがMEMS材料として広く使われる理由の1つとなっている。ただし,酸素プラズマを照射する際には真空状態にする必要があるため,低スループットで大面積基板への適用が難しいなど,高生産性化には課題も多い。
一方,コロナ放電を利用した大気プラズマ処理を利用すれば,大気中で処理可能で大面積化も可能であるが,処理面に放電痕が残ったり,電極材料のスパッタに伴う微粒子が処理面に吸着するなど,微細構造の接合とは相性が悪い面がある。そこで,これらのネガティブな部分を両方とも解決する可能性のあるVUV光による接合を,従来の酸素プラズマと大気圧プラズマとで比較してみる。各手法における処理条件の詳細は文献を参考頂くとして8, 9),接合の照射量依存性を評価した結果を図3に示す10)。
シリコーンゴムは自己接着性があり,未処理のシリコーンゴムでもガラスに対して0.1 N/mm2程度の凝着力を有するため,照射量がゼロでも弱い接合力を示す。図3に示すように,接合力の照射量依存性は,いずれの表面改質法においても照射時間が増えるに伴い接合力が一旦急増し,その後急減する傾向がある。これは,処理量が増えると,シリコーンがガラス化して安定になるため接合性を失うからである。ところで,シリコーンゴムは柔らかい材料であるため,本測定では0.9 N/mm2を超えて引っ張ると,接合面は接合状態を維持しているにも関わらず試験片が破断してしまうなどの都合により,我々の実験条件ではこれ以上の評価が困難であった。少なくとも,接合強度が材料強度を上回っているということなので,十分な接合力を有していることになる。
接合力はそれぞれ異なるものの,我々が現在確認している異種材料間の接着に関して,高分子材料を中心に図4にまとめる。特に,一般的な光学プラスチックが直接接合できることは,接着剤による屈性率補正の問題等が生じないことから,今後,光学素子への応用が広がっていくものと考えている。また,PDMSに関しては,我々がテストした限りではSiを含有する材料であれば接着するので,半導体デバイスとの親和性も高いと考えられ,今後,ハードなシリコンデバイスとソフトなシリコーンデバイス間の接着の架け橋になるものと期待している。