レーザービームを繰る-波長変換


図10
図10

シグナル光を外部から入射せずに,ポンプ光以外の光の入射がない場合でもシグナル光とアイドラ光が発生する場合も起こり得ます。このときの様子を図10に描いてあります。このとき,シグナル光だけを反射する共振器の中に非線形光学結晶を置くことによって,コヒーレントなシグナル光を取り出すことができます。これが光パラメトリック発振(Optical Parametric Oscillator:OPO)です。

図9下には,シグナル光にたいしてだけ共振器となる場合が描いてあります。シグナル光とアイドラ光の両方に対して共振器を構成する場合もあります。

OPOで得られるシグナル光とアイドラ光の波長は非線形媒質の位相整合条件によって決定されます。結晶の角度や温度を変えることで発生光の波長をチューニンクすることができるので,OPOは波長可変光源としてきわめて有用です。

非線形光学結晶は,3種類以上の原子からできており,種類が多くなればなるほど,高品質の単結晶を育てることが難しくなります。非線形光学結晶とそれを使った波長変換の例をいくつか挙げておきます。

図10上にはYAGレーザーから発振した波長λ=1064 nmの光をKTP(KTiOPO4)結晶でλ=532 nmに変換し(SHG),さらにCLBO(CsLiB6O10)結晶でSHG変換した結果,λ=266 nm(第四次高調波:λ/4)の光に変換している例です。CLBO結晶における位相整合条件も描いてあります。

同図の下にはYAGレーザーから発振した波長λ=1064 nmの光をLBO(LiB3O5)結晶でλ=532 nmに変換し(SHG),さらにLBO結晶でλ=1064 nmの光とλ=532 nmの光を使って,和周波発生を行い,λ=355 nmの光に変換している(第三次高調波:λ/3)例です。LBO結晶における和周波発生の位相整合条件が描いてあります。λ=532 nmの光に変換するLBO結晶の結晶軸方位と,λ=355 nmに変換するLBO結晶の結晶軸方位は異なっており,それぞれ用途に合わせて製作する必要があります。

非線形光学結晶としては,大型単結晶を作ることができるKDP(KH2PO4),周期的反転構造を作るのに適したLN(LiNbO3)やこの結晶にMgOを混ぜたMgLN(MgO:LiNbO3)などが有名です。周期的反転構造をさせたものをPPLNやPPMgLNと略することもあります。


図11
図11

図11には,PPLNを使って,1038 nmのファイバーレーザーと1577 nmの分布帰還型(DFB)半導体レーザーから差周波発生を行い,2~5μmの中赤外光を作る方法が描いてあります。結晶の温度を変化させて位相整合条件を変えることで,波長を変える例が描いてあります。中赤外光は,環境汚染ガスの吸収分光を有効に使われます。

宮崎大学・名誉教授 黒澤 宏


黒澤 宏
黒澤 宏
執筆者紹介
黒澤 宏(くろさわ こう)
大阪府立大学工学部博士課程を経て1976年より同大学助手,助教授を経て1991年より宮崎大学工学部電気工学科教授,その後2007年9月に大学教員生活に終止符を打ち,(独)科学技術振興機構JSTイノベーションサテライト宮崎の館長に就任し,地域における産学官連携業務に専念。現在は(一社)九州産業技術センター 成功報酬型事業化支援制度・専任コーティネータを務めている。レーザーEXPOにおいては,2003年から主に基礎部門の講師を務めており,初心者にわかりやすくレーザーについて解説している。

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