レーザービームを繰る-波長変換

さらに,C点で発生した波も同様です。D点で発生した波を見ると,それまでに発生した波の山同士がちょっとずれてきています。更に進んで,点Fで発生した波は,A点の波と位相が逆転しており,SHG光が打消しあいます。


図4
図4

すなわち,F点までの合成波の振幅が最大で,それ以降は減少し始めます。これ以上の位置におけるSHG光を合成しても,振幅は減少の一途をたどります。もっと進んで行くと,再び位相が揃う位置が存在しますので,合成波の振幅は図4に描いてあるように,大きくなったり,小さくなったりを繰り返すことになります。

通常はこの周期が数μmですので,大きな結晶を使っても,強いSHG光が得られません。これは,基本光とSHG光の間に位相速度が生じ,位相が揃わずにSHG光が増大しないのです。これを位相不整合と言います。

この位相不整合を解消するためには,互いの位相を揃えるすなわち位相整合をさせる必要があります。


図5
図5

一つは複屈折を利用する複屈折位相整合法です。複屈折を持つ結晶は,結晶の方位と偏光方向によって,異なる屈折率を持っています。基本光とSHG光が異なる偏光方向を持っており,それぞれの光が異なる屈折率を受けるだけではなく,その波長依存性も異なる性質を示します。例えば,2つの偏光EとOに対する屈折率が,図5のように波長と共に変化するとしましょう。

E偏光のSHG波長における屈折率とO偏光の基本光に対する屈折率が同じ値を持つように,結晶の角度や温度を調整することができるようになります。その結果,両方の光に対する位相速度が一致し,位相整合を取ることができるのです。図5では,Nd:YAGレーザーから得られる1064 nm基本光と,そのSHG光(波長532 nm)の屈折率を一致させる例が描いてあります。

複屈折位相整合は,結晶の複屈折特性に大きく依存しますので,波長変換に利用できるレーザーの波長と活用できる非線形光学特性が限定されます。また,複屈折結晶の異方性によって,結晶内を伝搬するにつれて,基本光とSHG光の進行方向にずれが生じる場合もあり,利用できる結晶長さに制限がかかる場合もあります。


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