半導体レーザーの基礎と実際

図6
図6

Si原子の1個を,P(リン)原子で置き換えたとしましょう(図6(a))。P原子は周期表のV属に属する元素で,結合に関与できる5個の電子を持っています。P原子が隣接するSi原子と結合するのに,4個の電子しか必要ありません。

その結果,結合には関与しない1個の電子が余ることになります。この1個の電子は結合に関与しませんので,エネルギー値から言えば,伝導帯内に存在することになります。このときのエネルギー準位を描いたのが図6(b)です。伝導帯の中に,電子が存在していますので,Si原子しか含まれないときより,電流は流れやすくなっています。

P原子のエネルギーは,シリコン結晶の伝導帯の底近くの値を持っています。このP原子から1個の電子が伝導帯に上がり,残ったP原子は正にイオン化している(図では,抜け穴が描いてあり,電荷が正であることを示しています)。電流の流れの基が電子ですので,n(負:negative)型半導体と呼ばれています。ここで,電子を与える原子を与える,という意味のドナーと呼んでいます。


図7
図7

図7(a)は,Si原子の位置にIII属元素であるB(ホウ素)原子が存在する場合を描いてあります。III族原子は結合に関与できる3個の電子を持っています。したがいまして,近隣のSi原子との結合に必要な電子が1個不足します。このB原子は,シリコン結晶の価電子帯から1個の電子をもらうことによって,結合を完結することができます。

その結果,電子の抜け穴である正孔が,価電子帯の中にできます。このB原子は電子を受け取って負に帯電することになります。この場合の電流の流れの基が正孔ですので,p(正:positive)型半導体と呼ばれています。ここで,電子を受け取る原子を受ける,という意味のアクセプターと言います。

これらの半導体は,Si原子以外の原子が不純物として入ることで電気が流れるので不純物半導体と呼ばれています。ところが,シリコンは光を出さない半導体の代表選手なのです。光を出すためには一工夫が必要なのです。次回は,この点についてお話しします。

宮崎大学・名誉教授 黒澤 宏


黒澤 宏
黒澤 宏
執筆者紹介
黒澤 宏(くろさわ こう)
大阪府立大学工学部博士課程を経て1976年より同大学助手,助教授を経て1991年より宮崎大学工学部電気工学科教授,その後2007年9月に大学教員生活に終止符を打ち,(独)科学技術振興機構JSTイノベーションサテライト宮崎の館長に就任し,地域における産学官連携業務に専念。現在は(一社)九州産業技術センター 成功報酬型事業化支援制度・専任コーティネータを務めている。レーザーEXPOにおいては,2003年から主に基礎部門の講師を務めており,初心者にわかりやすくレーザーについて解説している。

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