原子と光のところで,電子のエネルギー準位間の移動による発光においても,最上段付近に位置するエネルギー準位だけを考ました。シリコン結晶の場合も,最上位の3s+3pエネルギーバンドにだけ注目すれば十分です。結晶内の原子間隔が,図1(c)の縦点線の位置にあるときを拡大したのが図2(a)です。
各エネルギーバンドは,電子が存在しうる準位でできていますので許容帯と呼ばれ,それぞれ4N個の電子が入ることができます。これらのエネルギーバンドの中間には,禁制帯とかエネルギーギャップと呼ばれる,電子が取ることができないエネルギー領域があります。この図の点線の原子間隔のところだけを抜き出して,図2(b)のようなエネルギー構造を描くのが普通です。
最上位のエネルギーバンドには,電子が存在していないため,もしそこに電子が入ると,空席だらけの中にいるので,自由に動くことができ,電流が流れることになりますので,上のバンドを伝導帯と呼びます。
エネルギーギャップを隔てた下のエネルギーバンドは,原子間の結合に関与していますので,価電子帯と呼びます。このバンド内では,電子が満杯の状態にあり電子は身動きが取れません。
価電子帯の電子が,外部からエネルギー(温度,光など)をもらって伝導帯に上がると,動く電子が結晶内にでき,電気伝導性を示すようになります。結晶の種類によって,バンド構造が異なります。図3(a)のように,伝導帯と価電子帯が重なっているもの,すなわちバンドギャップがゼロものは,電子が自由に動くことができるので金属(導体)となります。
バンドギャップエネルギーの大きなものは,電子が価電子帯から伝導帯に上がりにくいので絶縁体になります図3(c)。小さなバンドギャップしか持たない場合は,電子が価電子帯から伝導帯に上がりやすいので,導体中ほど電子の数は多くはありませんが,絶縁体と比べると動き得る電子が存在しますので,それらの中間の性質を占める意味で半導体と呼んでいます図3(b)。すなわち,絶縁体と半導体は,バンドギャップエネルギーの大きさの差だけです。したがいまして,絶縁体と半導体の間に明確な区別はありません。
図3に描いてありますフェルミエネルギーは,このエネルギー値以下までは電子は満杯であり,それ以上は電子が存在しない境界のエネルギーのことを意味しています。