【本連載執を筆者された黒澤宏氏は2019年4月15日に逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。】
光に対する物質の性質は,屈折率で表わされます。物質の屈折率は,空気の場合は1ですが,他の物質では,1より大きな値を持っています。屈折率が1の空気から,n(>1)の物質に入ると,光の速度は空気中の速度の1/nに遅くなります。
例えば,これからお話しする光ファイバーには,石英ガラスが使われており,この屈折率は約1.5ですので,このガラスの中では,光は約20万km/sで進みます。空気中では1秒間に30万km進みますので,その1.5分の一になっています。
図1のAのように,光が屈折率の高い物質1(例えば,ガラス)から屈折率の低い物質2(例えば,空気)に到達すると,その角度を変えて進入していきます。光の進入角度がBのように浅くなると,透過する角度も小さくなり,境界面に対して平行に近くなります。そこでさらに進入角度を小さくすると,Cのように光は物質2に透過することができなくなり,すべての光が境界面で反射されることになります。このようにすべての光が反射されることを全反射と呼び,このときの入射角度を臨界角と呼びます。
ものを見るときは,そのものから反射される光を目でとらえて見ているのですから,例えば水中を泳いでいる魚からは人間が良く見えているのですが,人間からはある程度の角度を持った光しか見えないことになります。
言葉を替えて言いますと,光は屈折率の高い場所に閉じ込めることができるのです。閉じ込める空間を,石英ガラスやプラスチックで形成される細い繊維状の物質にしたものが光ファイバーです。光ファイバーは,図2のように中心部のコアと,その周囲を覆うクラッドの二層構造になっています。
コアは,クラッドと比較して屈折率が高く設計されており,光は,全反射という現象によりコア内に閉じこめられた状態で伝搬します。なお,光ファイバーを側圧などの外力から守るために,周囲にクッションのような役割をする保護膜が設けられています。
Er(エルビウム)を添加(ドープ)した光ファイバーは,光通信に利用される1.5μm波長帯で発振・増幅することから,光通信における増幅用に使用されています。光ファイバー中を光が伝搬するとき,損失は非常に低いとはいうものの,ゼロではなく,遠距離進むとかなりの減衰が起こります。