もう一つの空間コヒーレンスに話を移します。これは,光源内の異なる2点における光波の関係によって表されます。たとえば,放電管などの光源においては,各点から出てくる光波は互いにランダムな位相関係にあり,空間コヒーレンスは極めて悪いと言えるでしょう。各原子から出てくる光は10-9秒程度のコヒーレンス時間を持っていますが,異なった原子から出てくる光には一定の位相関係がなく,空間的にはインコヒーレントです。
レーザーの場合は,誘導放出を利用して光を出していますので,各原子から出てくる光の間には一定の位相関係があり空間コヒーレンスは良いのです。
空間コヒーレンスは,光源から出てくる光線の平行度(指向性)および集束度に関係します。しなしながら,たとえコヒーレント光源であっても,完全に平行なビームが得られるわけではなく,図4のようにビーム広がりを生じます。このビーム広がり角θはλ/D [rad]で与えられます。ここで,λは波長,Dはビーム直径です。
例えば,2ミリラディアン(mrad:角度の単位で180°=πrad(ラジアン))の発散角を持つレーザー光線が10 m離れた地点の壁に当たったとき,壁の上での光線の大きさは10×0.002=0.02 mだけ広がり,光線の直径は0.04 m,すなわち4 cmとなります。このように発散角が小さいことは,レーザー光線(ビーム)が一方向に向かつて線のように進むことを意味しており,レーザーの持つ特徴の一つとなっています。
さらに,ヘリウムネオンレーザーのビーム径が1 mmのとき,λ/D=6.33×10-4 [rad]となります。このレーザー光を50 km離れたスクリーンに照射すると,この地点におけるビーム径は30 mとなります。ところで,もし,このビームを100倍の望遠鏡を使って直径が100 mのビームに変換すると,λ/D=6.33×10-6 [rad]となり,50 km地点におけるビーム径は30 cmと小さくなります。