原子と光,そしてレーザー

【本連載執を筆者された黒澤宏氏は2019年4月15日に逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。】

光は原子から出てきます。原子の中の電子が余分なエネルギーを持っているとき,そのエネルギーを光の形で放出して元の状態に戻ります。原子にエネルギーを与える方法には,電子,光,化学反応などがあります。レーザーではありませんが,蛍光灯では,高温になったフィラメントから飛び出した電子が水銀原子に衝突して,その水銀原子から紫外線を出します。水銀原子が運動電子からエネルギーをもらい,その余分なエネルギーを紫外線と言う光を出して,元の状態に戻ります。


図1
図1

ナトリウム原子の例で言うと,(1s)(2s)(2p)までに10個の電子が詰まっており,その上の(3s)に1個の電子が存在する状態が基底状態で,そのすぐ上の(3p)状態に電子が上がったものが励起状態に相当します。原子と光の関係を話す場合には,図1のように,この2つの状態だけを抜き出して描くのが普通です。(3p)と(3s)間のエネルギー差に相当するエネルギーを持つ光がこの原子に入ってくると,(3s)にいる電子がこのエネルギーを受け取って,(3p)に上がります。原子が光を吸収して,励起状態になったことになります。

この励起状態にある原子は,不安定なので,時間がたつと基底状態に戻ります。このとき,エネルギー差に等しいエネルギーを持つ光を放出します。これが(自然)放出です。原子と光には,もう一つの現象があります。それは,励起状態にある原子に外部から光が入ってくると,その光に刺激されて基底状態に戻る現象で,誘導放出と呼ばれています。この場合は,外部の光に刺激された現象ですので,誘導を付けます。

誘導放出の特徴は,振動数(エネルギー),電場の方向,進行方向は入射光と同じであることにあります。したがって,誘導放出によって,入ってきた光は強くなって出て行きます(振幅が大きくなる)。一方,自然放出の場合は,入射光に関係なくいろいろな方向に向かいます。この誘導放出が,レーザーにつながる現象です。


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