どんなレーザーが,どのようなところで活躍しているのか?

図3 集光して高エネルギー密度を達成。いろいろな加工や手術に応用されています。
図3 集光して高エネルギー密度を達成。いろいろな加工や手術に応用されています。

レーザー光を凸レンズで集光すると,図3のように,狭い領域に高いエネルギー密度を作ることができます。これは鉄板に穴をあける,切断する,溶接するのに使えます。固いものだけではありません,赤ちゃんが口にくわえて吸う哺乳瓶がありますが,このお乳が出てくる部分の穴を開けるのにも使われています。また,何十枚と重ねた布をいろいろな形に切断するのにも便利です。

実は,ダイヤモンドの加工にも使われているのです。また,タバコのフィルター巻紙の無数な非常に小さな穴もレーザーによって開けられています。タバコは煙と空気を混合して吸うわけですが,この小さな穴がタールとニコチンの含有量を調整しています。

治療分野でもレーザーが使われています。例えば,レーザーで顔などにできた痣,シミ,そばかす,ほくろの部分を焼き取ることができます。また,網膜が眼底壁から剥がれてしまい,視力や視野を失う網膜剥離という病気に対し,レーザーで治療することも可能になっています。網膜が完全に剥がれてしまうと手の施しようがありませんが,一部が裂けた状態ですと,レーザー光を瞳孔から導入し,タンパク質を凝固することで,裂け目をふさぐことができます。外科手術を必要としませんので,患者への負担の少ない手術です。

手術に使われるメスでも,レーザーが応用されています。切った部分が熱で凝固するために止血処置を必要とせず,手術時間を短くでき,患者の負担を軽減できます。また,直接接触しないので,衛生的であるといったメリットもあります。ガンの治療や診断にも役に立っています。このような医療分野におけるレーザーの役割は,今後ますます重要になってくるでしょう。

数え上げたらきりがないくらいに使われているのですが,意外と知られていないのがレーザーです。次回からは光の本質に迫りながら,レーザー装置の原理から実例までを,順を追って詳しくお話ししていきます。

宮崎大学・名誉教授 黒澤 宏


黒澤 宏
黒澤 宏
執筆者紹介
黒澤 宏(くろさわ こう)
大阪府立大学工学部博士課程を経て1976年より同大学助手,助教授を経て1991年より宮崎大学工学部電気工学科教授,その後2007年9月に大学教員生活に終止符を打ち,(独)科学技術振興機構JSTイノベーションサテライト宮崎の館長に就任し,地域における産学官連携業務に専念。現在は(一社)九州産業技術センター 成功報酬型事業化支援制度・専任コーティネータを務めている。レーザーEXPOにおいては,2003年から主に基礎部門の講師を務めており,初心者にわかりやすくレーザーについて解説している。

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