早稲田大学の研究グループは,機械学習を使って光駆動有機結晶の発生力を向上させることに成功した(ニュースリリース)。
光駆動有機結晶の発生力を制御することは,実用化に向けて重要。発生力は結晶の物性,サイズ,光強度といった複数の要因に依存する。小さな力は光強度を下げることで容易に出力できる一方,発生力は結晶サンプルに依存した限界値があるため,大きな力を出力したい場合には適した実験条件を見出すことが困難になっている。
また,これらの実験条件と発生力との関係性は,まだ十分に理解されていない。もし既存の光駆動有機結晶の発生力(~10ミリニュートン(mN)程度)よりも出力を大きくすることができれば,その応用範囲は広がる可能性がある。そのためには,実験条件と発生力の関係性を広範な探索空間で調べる必要があった。
研究グループは,まず発生力の基礎物性であるヤング率に注目し,その値に影響する分子構造の特徴を,LASSO回帰という機械学習手法を用いて分析した。その結果,水素結合に関与する部分構造がヤング率を高め,ベンゼン環やハロゲンがそれを低下させるといった有意な相関が判明した。これに基づき,ヤング率の異なる複数のサリチリデンアミン分子を設計・合成し,実際に結晶化した。
続いて,得られた有機結晶を用い,どのような光強度・照射条件で最も大きな力が得られるかという実験条件の探索において,ベイズ最適化を導入した。これは,限られた試行回数でも効率よく最適条件に近づける機械学習の一種で,初期の10通りの条件からスタートし,結果をフィードバックしながら次の条件を提案するプロセスを繰り返した。
その結果,わずか110回の実験で37.0ミリニュートン(mN)という,従来の最大出力(約10mN)の3.7倍にも及ぶ発生力を実現した。この値を大域的最大値と仮定すると,総当たり的な探索手法(グリッドサーチ)に比べて73倍以上の探索効率が得られたことになる。
研究グループは,新規分子設計にも展開可能で,次世代の高性能機能性材料の開発に波及効果が期待されるとしている。