理科大ら,X線磁気円二色性測定でFeCoIrの特性解明

東京理科大学,物質・材料研究機構,高輝度光科学研究センター,兵庫県立大学は,軟X線と硬X線を用いたX線磁気円二色性(XMCD)測定により,鉄(Fe)-コバルト(Co)-イリジウム(Ir)合金が優れた磁気特性を引き起こすメカニズムを解明することに成功した(ニュースリリース)。

磁性材料はモーターや発電機をはじめとしたさまざまな機器に使用されており,日常生活に欠かせない材料。これまでの機械学習を活用した材料探索により,FeCo合金にIrを添加すると優れた磁気特性を示すことが見出されていた。しかし,その特性の起源については未だ明らかになっておらず,根本的なメカニズムの解明が強く求められていた。

研究グループは,室温アルゴン雰囲気下で,MgO基板上に厚さ30nmの均一な(Fe75Co25100xIrx(x=0~11at%)層を成膜した。成膜後,真空中でポストアニール処理を施し,さらに,Fe-Co-Ir層の酸化を防ぐため,上部に2nmのルテニウム(Ru)層を作製した。蛍光X線分析により,幅7mmの範囲でFe75.4Co24.6から(Fe76.1Co23.989.0Ir11.0までの組成傾斜を有することを確認した。

作製した合金膜について,XMCD測定を用いて元素ごとの磁気モーメントを詳しく評価した。その結果,スピン磁気モーメントと軌道磁気モーメントをFe75Co25と比較した場合,Feではそれぞれ1.07倍,1.44倍,Coでは1.18倍,1.12倍となった。

このことから,Ir添加によりFeとCoの軌道磁気モーメントが増強されること,特に軌道磁気モーメントの寄与がスピン磁気モーメントを上回ることが明らかになった。

また,汎関数理論計算によって,Ir添加が電子の局在化を促進し,スピン軌道相互作用を増大させることが示唆された。特に,Irの5d電子とFe,Coの3d電子との相互作用が主要な要因であることが確認され,FeとCoの電子状態が低いエネルギー準位へシフトすることで,軌道成分が磁気モーメントへ与える影響が増大することが明らかになった。

さらに,B2秩序構造の磁気モーメントはA2無秩序構造の磁気モーメントよりも大きく,B2秩序構造が磁気特性の増強に寄与していることが示唆された。

研究グループは,この研究成果のさらなる発展により,高効率モーターや磁気センサーなど,高性能なデバイス開発の設計指針を提供し,磁性材料分野の進展に大きく貢献することが期待されるとしている。

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