筑波大学と日本原子力研究開発機構は,溶けた燃料と水という異なる二つの液体による現象を模擬実験により3次元で可視化する手法を開発した(ニュースリリース)。
原子炉の過酷事故では,溶融した燃料が炉心の下部にある冷却材プールに落下し,大量の細かな液滴に分裂して広がる。この液滴の広がり方やその量,大きさは,燃料デブリ形成過程の理解に重要な情報となるが,目視やカメラ撮影だけの観察では現象の把握は難しかった。
溶融燃料を模擬した液体の断面形状を取得できる技術では,薄い膜状のレーザー光(シートレーザー)を用い,このレーザー光が通過する断面を発光させることで,断面形状を取得することができるようにしていた(レーザー誘起蛍光(LIF)法)。
その断面の前後にも広がる液滴も観察し,さらに液滴の量や一つ一つの大きさを計測するためには,発光させる断面の位置を高速かつ任意に変化させることが課題だった。
研究グループは,今回,この発光させる断面位置を,ガルバノスキャナーを実験装置に組み込むことで高速かつ任意に変化させることに成功した。これにより,液体が大量の液滴に分裂する現象を3次元で可視化できる手法(3D-LIF法)を開発した。
得られた溶融燃料を模擬した液体の3次元形状データを計算機で処理することで,液滴一つ一つの大きさや速さを高精度に計測できる。また,原子力機構が開発した詳細二相流数値解析コードを用いることで,同様の現象を再現することが可能となった。
開発した可視化手法を冷却材プールの水深が浅い場合の実験に適用した。プールが浅いと,溶融燃料が床面に衝突した後,縦方向に落下するだけでなく,横方向や奥行方向にも広がり,目で見ただけでは何が起きているか理解できないほど複雑に広がる。
このような状況下での燃料デブリ形成過程の解明は非常に困難になる。これまで開発した手法だけでなく新たに開発した手法も適用することで,液滴が発生する際の液体の形状,発生する液滴の大きさや速度を可視化計測し,これらを関連付けて現象を考察した。
その結果,液滴は異なる二つの液体の速度差や遠心力による「サーフィンパターン」,重力による「液膜破断パターン」で発生することが明らかになった。
研究グループは,この研究成果は,東京電力福島第一原子力発電所の廃炉や原子炉の安全性向上に貢献するとしている。