OISTら,STED顕微鏡の長時間観察を可能に

沖縄化学技術大学院大学(OIST),独マックスプランク高分子研究所などの研究グループは,STED顕微鏡での10nm単位の現象の長時間観察が可能になったと発表した(ニュースリリース)。

従来の顕微鏡は,約200nmの解像度に制限されているが,細胞内などの観察過程では,この制限よりも小さなスケールでの観察が求められる場面が多い。STED顕微鏡では,試料中の蛍光色素(蛍光プローブ)に励起レーザーを照射し,発光させる。2つ目の断面がドーナツ型の消光レーザーでリング領域の蛍光を消し,中心の小さなスポットだけが発光した状態にする。この2つのレーザーを試料上で走査することで,従来の方法より高解像度の画像が得られる。

しかし,従来のSTED顕微鏡では,蛍光色素がレーザーによって壊れて恒久的に蛍光を失ってしまう「光退色」という現象のために観察時間が制限されていた。これは,繰り返しの走査が必要な長時間にわたる過程を観察する際に特に問題となる。

研究グループは,蛍光分子からナノグラフェンに置き換えることで,この問題への解決策を見出したという。ナノグラフェンは頑丈な分子構造を持ち,蛍光が回復するという特性を備えていることが明らかとなった。消光レーザーが蛍光色素の光退色プロセスを逆転させ,一度失活した蛍光を再活性化させることにより,同じ試料をより長い時間,繰り返し観察することが可能となったとしている。

この手法は,超解像顕微鏡を用いた多くの新しい研究に道を切り開くと期待される。ナノグラフェン分子を再活性化させることで,プロセスを非常に高い解像度で長時間にわたって観察することが可能となり,STED観察が生物学や材料科学などの新しい研究領域に応用が可能になるとする。

研究グループは,この新手法を用いて,生きた細胞内における未知の生命現象を観察すべく,新しい機能性ナノグラフェンの合成研究に現在取り組んでいくとしている。

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