産業技術総合研究所,レラテック,イー・アンド・イー ソリューションズ,日本気象,ウインドエナジーコンサルティング,神戸大学は,スキャニングライダー風計測の測定精度や特性を評価するため,むつ小川原洋上風況観測試験サイトにおいて実証試験を実施した(ニュースリリース)。
カーボンニュートラル社会の実現が重要視される中,政府の施策においても洋上風力発電の導入がその鍵を握るとされている。洋上風力発電は発電量が風の強弱にのみ依存するため,導入にあたっては事前の風況調査が採算性を判断する上で不可欠。しかし,従来の気象観測マストを用いた風況調査手法には,建設にかかる高額なコストや長期間にわたる事前準備といった問題が存在している。
こうした問題を解決するために,光のドップラー効果を利用したライダー技術,とりわけレーザーを水平方向に照射するスキャニングライダー技術が近年注目を集めている。
スキャニングライダーによる風計測技術には,主に二つの方式が使用されている。一つはスキャニングライダー1台を使用するシングル観測方式,もう一つは2台を使用するデュアル観測方式。産総研では,2017年よりこれらの計測技術について,フィールド実証および解析手法の研究開発を本格的に進めてきた。
今回研究グループは,整備されたむつ小川原洋上風況観測試験サイト(青森県六ヶ所村)において,海岸線から約1.5km沖合の防波堤上に設置した気象観測マストを検証用データとして,約1年間にわたってスキャニングライダーのシングル観測方式およびデュアル観測方式の同時観測を実施した。
今回の実証試験により,デュアル観測方式およびシングル観測方式のいずれでも,従来の気象観測マストに取り付けられたカップ式風速計を用いる手法と同等に,期待発電量を示す設備利用率を正確に評価できることが明らかになった。
設備利用率は,洋上風力発電の事業性を検討する上で重要な指標として活用される。さらに,スキャニングライダーを2台使用するデュアル観測方式においては,より高度な指標である乱流強度(風の変動成分)についても,従来の気象観測マストを用いた手法と同等の精度で計測可能であることが確認された。乱流強度は,期待発電量と同様に,風車の設計において重要な指標の一つとなっているという。
研究グループは,スキャニングライダーによる海上風観測は,従来の気象観測マストを用いた手法と比較して観測コストを最大で10分の1に削減できる可能性があることから,コスト削減を通じて,洋上風力発電の導入促進に貢献することが期待されるとしている。