早稲田大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は,テラヘルツ帯に対応した無線通信システムを試作し,4.4kmの距離で,大容量伝送を可能とする伝送速度4Gb/sの通信を実現した(ニュースリリース)。
次世代移動通信システムBeyond5G/6Gシステムにおいては,非地上系ネットワーク(NTN)の大容量通信を行なうフィーダーリンクの一部を,テラヘルツ帯を用いた高速通信が担うことが期待されている。
これまで,上空との通信にはXバンド(8GHz帯)やKaバンド(26GHz~40GHz)が利用されてきたが,利用可能な周波数の帯域幅が限定されているため,伝送速度は数百Mb/sから数Gb/sが限界となっている。
研究グループは,高度20km程度以下の高高度プラットフォームシステム(HAPS)や航空機に対するフィーダーリンクにおいて,テラヘルツ波を含む高い周波数帯の利用による伝送速度の向上を検討している。
具体的には,92GHz~94GHz,95GHz~100GHz,および102GHz~104GHzの周波数帯に対して,広帯域の複数チャンネルを活用することで,20Gb/s以上の大容量通信を実現できるという。
研究グループは,92GHzから104GHzのテラヘルツ領域までに対応するアンテナ,送信機および受信機を試作した。長距離通信を担う高利得アンテナサブシステムとしては,上空の飛行体に搭載可能な小型軽量の0.3m径カセグレンアンテナと,地上局用の1.2m径カセグレンアンテナを開発し,最大出力を1Wとして設計した送信機と組み合わせた。
今回は,周波数帯を95.375GHz~96.625GHz(中心周波数96GHz)に限定し,送信機の空中線電力は15mW(特定実験試験局で許可される範囲内の等価等方放射電力(EIRP)に対応)に設定して伝送実験を実施した。
実験では,6階建ビルの屋上からスカイタワー西東京までの4.4kmの距離に対して,帯域幅1.25GHzを使用したシンボルレート1Gシンボル/秒の条件で,変調方式QPSK(伝送速度2Gb/s)および16QAM(4Gb/s)を用いた伝送を確認した。
研究グループは,将来的には,通信の大容量化により,地上で使用されているネットワーク回線(LAN)レベルの高速通信を上空まで延伸させることが可能になり,大規模災害時の広域通信基地局,山間部や離島への高解像度の映像の伝送など,上空の通信網を使った多様なサービスの創出が期待されるとしている。