早大ら,一次元らせんペロブスカイトで巨大光起電力実証

早稲田大学,東京大学,筑波大学は,ハロゲン化鉛ペロブスカイトの一次元らせん構造および配列を有機キラル分子と結晶成長法により制御する手法を見出し,15Vを超える巨大な光起電力を発現させることに成功した(ニュースリリース

対称性の崩れた低次元構造の無機結晶において,Siなど高次元半導体では観測されない特異的な物理現象が注目を集めている。特に,重い原子を含む系では,バルク光起電力効果など特異的な物理現象を示し,次世代半導体材料として期待されている。

一方,無機物質のみを用いた材料・デバイスの作製手法は,物質設計の自由度と制御性が有機物質に比べて低く,特異的な電子物性を促す構造をナノスケールで制御するには限界があった。

ハロゲン化鉛のような重原子を含む無機物質に対し,有機分子のキラル構造を利用することで,一次元らせん構造の形成を促すことができる。この無機化合物からなる一次元らせん鎖は,有機キラル分子を介し,その配列を制御することにより,スピンと光が関わる特異な物理特性,たとえば,キラリティによる円偏光検出,極性によるバルク光起電力,スピンの偏極による電流誘起磁性などを示す可能性がある。

これまで,一次元らせん構造を有るするペロブスカイト系薄膜デバイスを作製し,円偏光検出など特異的な光電磁物性の発現に成功している。たとえば,PbI2は、R-(+)およびS-(‒)-(1-ナフチル)エチルアミン(R (S)-1-NEA+)とのヨウ素を介した水素結合により,[PbI6]4-からなる八面体構造が面を共有し連結した一次元らせん構造((R (S)-1-NEA)PbI3)を形成する。

この結晶の空間群は,反転対称性の破れたキラルなP212121であり,RとSでらせん軸の回転方向が異なるため,左右円偏光を選択的に検出可能。一方で,P212121結晶構造のらせん鎖は反平行に配列しているため,らせん鎖に沿った電気双極子モーメントは相殺されてしまう。

ここで,一次元らせん型ハロゲン化鉛ペロブスカイトの結晶学的対称性をP2₁またはC2に下げると,バルク光起電力などの極性に由来する物性の発現が期待できる。

研究では結晶対称性の制御に焦点をあて,熱的制御による結晶化法で,極性キラル空間群C2に属する一次元らせん構造のハロゲン化鉛ペロブスカイトの結晶を得た。一次元らせん方向に大きな極性を有するこの結晶は,15Vの巨大な光起電力を示した。

研究グループは,低次元半導体材料を開発する新たな指針となり,次世代光デバイス(光センサー,光発電デバイス,スピントロニクスデバイスなど)への応用に道を拓く成果だとしている。

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