東京科学大ら,超小型ソーラーセイルの開発を開始

東京科学大学,JAXA,宇宙構造物に係る解析・設計・開発を行なうcosmobloomらが提案する超小型衛星ミッション「超小型ソーラーセイルによる姿勢・軌道統合制御」が,JAXAの「産学官による輸送・超小型衛星ミッション拡充プログラム(拡充P,通称JAXA-SMASH)」の衛星開発フェーズへの移行が決定した(ニュースリリース)。

物体に太陽光が当たることで生じる太陽輻射圧の大きさは非常に小さいが,宇宙空間で反射率が高い大きな帆(ソーラーセイル)を広げれば,加速し,軌道変更ができる。原理的にはいつまでも軌道制御し続けられるだけでなく,太陽方向から離れることも近付くこともできる。

ところが,太陽輻射圧は宇宙機の姿勢運動に影響する外乱トルクも生じさせるため,推進機により推進剤を噴射することが求められることから,本格的な深宇宙探査の実現にはその解決が不可欠とされていた。

研究グループはこれに対し,ジンバル機構を利用した制御システムを提案してきた。これは,セイルと宇宙機構体の相対回転を可能とする回転駆動機構で,宇宙機の姿勢に応じて質量中心の位置を適切に変化させることで,外乱トルクを最小限に抑えられる。

また,角運動量が蓄積しても,質量中心の位置を適切に調整すれば,太陽輻射圧トルクの作用方向を角運動量の反対にして放出させることもでき,理論上は完全に推進剤フリーな姿勢・軌道統合制御が可能になる。

研究グループは,新しい技術の宇宙実証を行なうべく,JAXA-SMASHにミッションを提案し,1年間のフィージビリティ・スタディを行なうテーマとして採択された。そして今回,衛星開発フェーズに移行し,開発費用と打ち上げ機会を獲得した。

超小型ソーラーセイルPIERISは,新たに開発する一辺5mのピラミッド形状(四角錐形状)のセイルと,それを支持・展開する自己伸展ブームを備え,これらの装置一式が,ジンバル機構を介して衛星構体に取り付けられる。

ミッションには発展的な技術実証として,セイル上に搭載する多数の薄膜太陽電池による発電実験や,その電力を利用した推進機による(ソーラーセイルと組み合わせたハイブリッド推進による)軌道制御実験も組み込まれている。

研究グループは今後,現在の衛星開発フェーズにおいてPIERISの開発を進めて,衛星の完成と地球周回軌道でのミッションの成功を目指す。さらにPIERISの次の将来展望として,新たな超小型ソーラーセイルによる深宇宙探査ミッションを計画しているという。

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