東北大学と信州大学は,有機合成化学と超分子化学の手法を用いて固体中の個々の分子配列を正確に制御することで,これまでに不可能と考えられてきた複数の機能をハイブリッド化することに成功した(ニュースリリース)。
有機分子の中には,光に応答して分子構造が変化したり,化学反応を生じたりする性質を持つ物質がある。一般にこれらの変化や反応は溶液中で起こるが,適切な分子配列の制御を行なうことで固体の分子集合体中においてもその実現が可能になる。
分子集合体の中の分極構造が反転運動するダイナミクスは,不揮発性メモリの動作原理でもある強誘電体の実現に不可欠で,その分子設計には,極性構造の設計と外部電場に応答可能な柔らかな結晶格子の実現が重要となる。一方で固体中の光反応性と強誘電性の共存は,極めて緻密な分子設計と分子配列制御が必要であることから,これまでは実現されていなかった。
代表的な光反応性のπ電子系有機分子に−C=C−結合が分子中心に存在するスチルベンがあげられ,古くからその光二量化反応が検討されている。超分子化学の手法を用いてスチルベンの分子配列様式を制御することにより,固体中での−C=C−結合の[2+2]光二量化反応が設計可能となる。
今回新たにアルキルアミド鎖(−CONHCnH2n+1)を有するスチルベン誘導体(C14SDA)を分子設計した。強誘電性の実現に有利に働くと考えられる分子間アミド水素結合鎖に着目し,同時にアルキル鎖の熱運動状態の違いを反映した可逆的な連続相転移(S1→S2→S3→L)を示す新規化合物の開発に成功した。
C14SDAの高温固相であるS3相では,アルキル鎖が部分的に融解し,一次元的な分子間アミド水素結合と外部電場による双極子モーメントの分極反転に起因する電場-分極(P-E)曲線のヒステリシスを伴う強誘電挙動を示した。
C14SDAの低温固相であるS1相では光二量化反応を示さなかったのに対し,熱的に揺らいだ高温相であるS2相とS3相は[2+2]光二量化反応を示し,固体中で反応生成物であるシクロブタン環を形成した。強誘電体となる高温固相であるS3相では,光二量化生成物の生成と同時にスチルベンのトランス-シス異性化反応も観察された。
さらに,S3相に電場を印加して光二量化反応を試みたところ,分子の熱的な揺らぎが電場によって抑制されることで,−C=C−二重結合間の距離と対応した光反応収率の変化が観測された。
研究グループは,この成果は,次世代有機エレクトロニクスの機能制御のための技術開発に新たな可能性を拓くと期待されるとしている。