東北大ら,光に強く安定したタンパク質標識を開発

東北大学と三重大学は,DNAを活用し,光に強く安定した新しいタンパク質標識「FTOB」を開発した(ニュースリリース)。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経疾患は,キネシンというタンパク質の異常が原因の一つとされている。しかし,神経疾患の患者の細胞にも半分は正常なキネシンが存在しているのに,なぜ疾患が起こるのかは解明されていない。

キネシンをはじめとするタンパク質の動きを詳細に調べるためには,ミリ秒単位の高い時間分解能で長時間観察できる技術が必要。このような技術は神経疾患の研究だけでなく,生命科学全般においても,タンパク質や分子の動的な振る舞いを理解するための重要な手段となる。

しかし,従来の蛍光標識では,観察中に光退色や明滅といった問題が起こり,高精度な解析が困難だった。これらの課題は,研究の進展を妨げる要因となっていた。

DNAの構造には柔軟性があり,「DNAオリガミ」という技術を使うと極めて小さな構造体を自由に設計・作成することができる。DNAで作製した構造体はナノメートルスケールという極めて小さなサイズで,タンパク質や分子の研究に適している。この技術を活用して,研究グループは光に強い新しい蛍光標識「FTOB」を開発した。

FTOBは,5つの蛍光色素を約8.8nmの距離に集積させることで,高い光安定性を実現している。この標識を使用することで,1秒間に10枚以上のミリ秒単位の高精度な動画を,1分以上も光退色や明滅なく取得することが可能になった。

さらに,FTOBを用いて,神経疾患型キネシンと正常型キネシンが混在している状態(神経疾患患者の細胞内を再現した状況)を作り出して観察した。その結果,キネシンが減速と急激な加速を交互に繰り返すという新たな現象を発見した。この成果は,神経疾患の発症メカニズムを解明する上で重要な手がかりになるという。

DNAを利用して作製したFTOBは設計を自由に変更できる特長をもち,さまざまなタンパク質や分子の相互作用を詳細に調べることが可能。このため,キネシンに限らず,がんやアルツハイマー病など,他の疾患に関連するタンパク質の運動解析にも応用が期待されるとする。

研究グループは,FTOBを用いた高い時間分解能の観察を行なうことで,従来の観察手法では捉えきれなかった新たな生命現象の発見にもつながる可能性があるとしている。

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