岩手大学,森林研究・整備機構,東北大学は,ほとんどわかっていなかった針葉樹の光合成CO2固定酵素Rubiscoの特性を明らかにした(ニュースリリース)。
針葉樹は陸上植物の進化の早い段階において出現した。現在も地球上に広く分布し,寒冷地などでは優占種となっている。また,生育が早く,木材として利用されるなど,実用植物としても重要。
植物の光合成の能力を決定する因子のひとつが,CO2固定反応を担う酵素素で,葉に最も多量に存在するタンパク質Rubisco。タンパク質をつくるには窒素が必要なため,Rubiscoは植物とって最も不足しやすい窒素栄養の体内利用にも関連する。
これらの重要性から,Rubiscoの酵素としての性能や,葉に含まれる全窒素のうちRubiscoに使われている割合(存在量)に関する研究が多く行なわれてきた。しかし,針葉樹については,葉に含まれる妨害物質から研究例はほとんどなかった。
一方,研究グループは,シダ植物で同様な問題を解決する方法を確立しており,この方法を針葉樹にも適用し,ヒマラヤスギ,ドイツトウヒ,イチイ,アカマツ,ゴヨウマツの解析を行なった。
これらの針葉樹のRubiscoを一般的な草本植物(対照植物:イネ,コムギ,ホウレンソウ)のRubiscoと比較すると,CO2固定反応の最大速度は同程度である一方,CO2固定反応のしやすさ(基質親和性)はやや低いことが明らかになった。また,Rubiscoの存在量は一般的な草本植物と比べ少なかった。
以上の結果から,針葉樹のRubiscoは一般的な草本植物のRubiscoと比べ,酵素としての性能がやや低く,存在量も少ないことが明らかとなった。
この理由として,①針葉樹の祖先が出現した時代は,大気中のCO2濃度が現在よりもはるかに高く,Rubiscoの基質親和性が高いことも,Rubiscoが多量に存在する必要もなかった,②Rubiscoが少ない分だけ,窒素は細胞壁の合成などに利用されたことが考えられる。針葉樹が寒冷地などで優占種となっている理由のひとつとして,低温ではCO2が水に溶けやすく,基質親和性が低いという針葉樹Rubiscoの弱点が緩和されることが考えられるという。
また,研究グループは,光合成の副反応である光呼吸において,針葉樹では一般的な植物よりもCO2を多く発生することを解明している。このことも針葉樹のRubiscoの弱点を補っているものと考えられるという。
研究グループは,今回の成果に加え,さらに広範な植物種においてデータを収集することで,Rubiscoの進化の解明に大きく貢献できるとしている。