東大,ハイパーラマン散乱分光の信号増幅法を開発

東京大学の研究グループは,新たな振動分光法である「コヒーレント・反ストークス・ハイパーラマン散乱(CAHRS)分光」を開発した(ニュースリリース)。

分子の振動を検出し,分子の構造やダイナミクスを研究する手法として,赤外吸収を用いた赤外分光やラマン散乱を用いたラマン分光が広く用いられている。

特にラマン分光は,さまざまな試料への応用が可能であり,材料の分析や生体試料のイメージングなどに広く用いられている。一方,ラマン分光では検出できない分子振動も存在し,分子振動の持つすべての情報をラマン分光では得ることはできない。

ラマン分光で得られない分子振動を測定する手法として,ハイパーラマン分光が近年注目を集めている。しかし,ハイパーラマン散乱が極めて微弱であるため,さまざまな応用を妨げているという問題点があった。

今回,研究グループは,微弱なハイパーラマン散乱光を増幅する新たな非線形分光法「コヒーレント・反ストークス・ハイパーラマン散乱(CAHRS)過程」を世界で初めて実証した。ハイパーラマン散乱光を増幅するため,ハイパーラマン過程とコヒーレント・ラマン過程を組み合わせた上記過程を用いることで,その信号の検出に成功した。CAHRS過程は約40年前に理論的に提唱されていた手法だが,それを実験的に実証したのは今回が初めてだという。

研究グループが有していたハイパーラマン分光についての知見を活用し,CAHRS分光を実現する分光装置を構築した。CAHRS過程は5次非線形光学効果に基づくため,より低次の光学効果による信号が混入する可能性がある。

研究グループでは,さまざまな観点から分光実験を行ない,今回得られた信号が確かに真のCAHRS信号であることを実証した。また,試験試料として用いたパラ-ニトロアニリン溶液やベンゼンの測定結果から,CAHRS分光によって,従来の自発ハイパーラマン分光と比べて10分の1の時間で,はるかに高い信号ノイズ比を持つ信号を得られることを示した。

このように今回の研究によって,ハイパーラマン分光法とコヒーレント・ラマン過程を組み合わせることで,微弱な信号を増幅し,短時間でのハイパーラマン散乱信号の取得を可能にした。

研究グループは,この研究によって,これまでハイパーラマン分光法では不可能とされてきた測定が可能になり,基礎物理化学のみならず,分析化学における測定技術の革新に貢献することが期待されるとしている。

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