九州大学の研究グループは,日射スペクトル観測データに累積ユークリッド距離行列に基づく凝集型階層的クラスタリングを適用し,赤から青へのスペクトルシフトを伴う5つの日射特徴クラスター(SCI)を特定した。そして,比較的簡単に取得できる環境変数(日射拡散率,全天日射,日射の変動率,太陽高度,大気湿度)を使用してSCIを再現できる機械学習モデルを開発した(ニュースリリース)。
植物は,日射を光合成に利用するだけではなく,日射のさまざまな光波長の比率(色彩バランス)を光受容体の応答を通じて環境シグナルとして利用している。色彩バランスは大気や雲,太陽の高さなどの影響を受けるが,これらの情報は植物生理生態学的には整理されておらず,実態にそぐわない日射モデルによって生物応答が研究されてきた。
研究では,九州大学伊都キャンパスの農学部建物の屋上に設置した回転シャドウバンド型高精度分光放射計で測定した日射スペクトル観測データを分析し,福岡県の屋外環境における日毎の日射拡散と色彩バランスを考慮した分類手法の開発を試みた。
累積ユークリッド距離行列に基づく凝集型階層的クラスタリングを適用し,赤から青へのスペクトルシフトを伴う,晴天から曇天までの5つの日射特徴クラスター(SCI)を特定した。そして,包括的なスペクトルデータを取得することが難しい地域での利用を考慮して,比較的簡単に取得できる環境変数(日射拡散率,全天日射量,日射の変動率,太陽高度,大気湿度)を使用してSCIを再現できる機械学習モデルを開発した。
選択されたサポートベクターマシン(SVM)モデルは,88.03%の検証精度と94.29%のテスト精度を達成し,現地で直接的なスペクトル測定が利用できない場合の実用的な代替手段を提供できることを示したという。
従来は曇天の効果は日射量の減少としてのみ評価される傾向があったが,紫外線や近赤外線を含めた色彩バランスの変化の効果,あるいは,雲の効果が日射強度変動に及ぼす違いなどを考慮することが可能になるとする。
研究グループはこのアプローチにより,世界のさまざまな場所で,天候に依存する日射波長比率の違いのモデル化が可能となり,植物と生態系機能に関する光応答研究が促進されることが期待されるとしている。