広島大学と理化学研究所は,光を使って細胞内でタンパク質の輸送の開始をオン/オフできる新しい輸送開始実験法RudLOV法を開発した(ニュースリリース)。
ゴルジ体は細胞内で,小胞体で生合成されたタンパク質(積荷タンパク質)を受け取り,体内を通って加工し,それをさまざまな必要な場所へと送り出す。
ゴルジ体内部での積荷タンパク質の輸送のメカニズムは明らかになってきたが,ゴルジ体からの積荷タンパク質の搬出のメカニズムはまだよくわかっていない。
近年の顕微鏡技術の発展から,積荷タンパク質の輸送過程を観察することで,そのメカニズムを解明する研究が行なわれている。しかし,通常の細胞では積荷タンパク質は少しずつ輸送されており,それが少量であることからゴルジ体内部の積荷タンパク質を直接観察することは困難となっている。
研究グループは,従来の輸送開始法RUSH法で発見された課題を克服するために,光照射によって輸送開始を誘導できる新しい輸送開始実験法RudLOV法を開発した。これは光照射によって輸送開始を誘導できる同調的輸送開始法となっている。
ヒト培養細胞において,共焦点レーザー顕微鏡を用いて,RudLOV法による観察を行なった結果,RudLOV法では,①光照射により輸送のタイミングを厳密に制御できること,②光照射を単一の細胞や細胞内の領域に絞って行なうことで,特定の細胞や領域だけで輸送開始させることができること,③光照射の強度や時間を制御することで,輸送される積荷タンパク質の量を厳密に制御できることを示した。
ごく少量の積荷タンパク質だけを輸送させる実験では,ゴルジ体内部のどこを積荷タンパク質が通っているかを詳細に観察することに成功し,積荷タンパク質の種類によって異なる経路を経由して輸送されること,また,一部の積荷タンパク質がゴルジ体のトランス側に特殊な領域を形成して蓄積することを明らかにした。
また,RudLOV法を用いて,dynasoreを投与した細胞でゴルジ体のどこで輸送が止まっているかを観察した。その結果,輸送開始前にdynasoreを投与するとゴルジ体のシス側で輸送が阻害され,輸送開始後すぐに投与すると,投与直後にはゴルジ体のシス槽に積荷タンパク質が存在するのにも関わらず,輸送がトランス側まで進行し,ゴルジ体のトランス側で輸送が阻害することがわかった。
研究グループは,今後は,RudLOV法を用いて,積荷タンパク質の種類による経路の違いをより詳細に観察していき,これまでに報告されていない新たな輸送機構の解明を目指すとしている。