東北大,一回の計測で振幅像が取得可能なCDI開発

東北大学の研究グループは,コヒーレント回折イメージング(CDI)において一回の計測でも振幅像の取得が可能になる解析手法を開発した(ニュースリリース)。

CDIは,レンズを使用せずに高分解能観察が可能な顕微手法。高性能レンズの作製が難しいX線領域などで,レンズ性能を超える分解能で材料内部の化学状態を観察できる。しかし,化学状態を観察するために必要な試料による光の吸収分布を表す像(振幅像)を得るには,複数回の計測が必要だった。

研究では,一枚の回折強度パターンから振幅像を再構成する位相回復手法を開発した。位相回復計算は本来,一枚の回折強度パターンから振幅像を再構成できるが,実際には回折強度パターンに含まれる試料の情報がノイズに埋もれ,正確な再構成が困難だった。

これには,事前に分かっている試料の情報による位相回復計算の補助が有効。そこで,一回の計測でも取得可能な「位相像」の構造に着目した。位相像は,試料による光波の進み(もしくは遅れ)具合を表す画像で,ほとんどの材料において振幅像とよく似た構造を示す。

この構造類似性を振幅像再構成に活用するのが,開発した位相誘導振幅再構成(PGAR)という手法。その特徴は「ガイド付きイメージフィルタ処理」という画像処理技術を活用する点にある。

このフィルタは2つの画像が与えられたとき,一方の画像がもつ構造的な特徴を他方の画像に伝達する。PGARでは,ガイド付きイメージフィルタにより位相像の構造を振幅像に伝達しながら位相回復計算を繰り返すことで,一枚の回折強度パターンからでも正確かつ高分解能な振幅像を再構成した。

検証のため,SPring-8において位相回復計算の精度を高めることが知られる三角形状のX線を用い,複数回の計測データを用いることで正確な位相像と振幅像を得る「タイコグラフィ」との結果を比較した。

構造が既知の試料での実験では,位相回復法では困難だった振幅像再構成がPGARにより可能になった。再構成像は,121枚の回折強度パターンを用いたタイコグラフィと同等の定量性を示し,さらに位相像・振幅像共に約30nmの分解能を達成した。

錫・ビスマス(Sn-Bi)合金粒子の観察では,56枚の回折強度パターンを用いたタイコグラフィ(計測時間5分8秒)と同程度の定量性を持つ像を,1枚の回折強度パターン(計測時間5秒)から再構成した。

これは計測時間が1/60以下になったことを意味し,CDIによる化学状態の高速観察実現が期待できるという。研究グループは,様々な分野での応用が期待されるとしている。

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