千葉大学の研究グループは,果樹害虫のオウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii)を研究対象に,夜間人工光が繁殖行動に与える影響を評価した(ニュースリリース)。
現在,地球上では都市の面積が拡大しつづけている。これにより,都市では森林や草原などの生物の生息地が減少するとともに,人間活動に起因する環境ストレスが増大している。
街灯や住宅,工場の照明に由来する夜間の人工光(光害)は,都市における環境ストレスの代表例。夜間の光は,活動リズムを狂わせるなどして,生物に多大な影響を及ぼす可能性が示唆されている。一方で,都市化によってどの生物も数を減らしているわけではなく,害虫のように数を増やしているものもいる。
都市化が生物やその多様性に与える影響を理解するためには,都市ストレスが生物に与える影響や,それに対する生物の適応進化を明らかにする必要があるが,その理解は十分ではない。
研究グループは,都市から郊外まで幅広い環境に生息するオウトウショウジョウバエを対象に夜間の微弱な光の本種の成長や繁殖に与える影響を調べた。関東地方の都市と郊外に由来する系統を「夜間照明のない環境」と「微弱な夜間照明(10Lux)のある環境」で卵から成虫まで飼育し,成虫のサイズや雄や雌の繁殖行動を調べた。
その結果,都市と郊外のどちらに由来する系統でも,夜間照明のある環境で飼育された個体は,体が数%小さくなることがわかった。さらに,オスは求愛行動が弱くなる一方で,メスの産卵数は,夜間照明への曝露によって2倍以上に増えることもわかった。
これらの結果は,夜間の光がオウトウショウジョウバエの成長や繁殖に影響を与えることを意味している。夜間人工光によるメスの産卵数の増加は,オウトウショウジョウバエが都市部への定着を成功させたことや,害虫として繁栄したことの一因となった可能性がある。
一方,都市系統の個体は郊外系統に比べ,夜間照明の影響を一貫して受けにくい傾向が見られた。これは,近代化により夜が明るくなって以降に,都市に定着した集団において都市ストレスへの耐性が急速に進化していることを示唆する証拠となる。
研究グループは,今後は,害虫管理や生物多様性の保全策に役立つ応用研究の進展が期待されるとしている。