農工大ら,グラフェンから波長可変な赤外発光を観測

東京農工大学,情報通信機構,アデレード大学,東京大学は,磁場下のグラフェンにおいて電気駆動により波長可変な赤外発光を世界で初めて観測することに成功した(ニュースリリース)。

遠赤外光~中赤外光帯域は,電波と光の中間に位置し技術的に未発達な領域だが,分子や結晶の振動など多くの重要な情報を含む光の領域。このため光学,電子工学,天文学,バイオ医療など多くの分野で遠赤外光~中赤外光帯の広い帯域で使用できる光源に関心が高まっている。しかしながら波長可変で連続発振する電気駆動の遠赤外光~中赤外光帯光源は未だ発展途上となっている。

半導体では磁場下においてエネルギー間隔が磁場に依存するランダウ準位が形成される。このランダウ準位を利用した発光(ランダウ準位発光)を用いて,磁場により波長可変な遠赤外・中赤外レーザーの試みは半世紀前から挑戦されてきた。しかしながら,通常の半導体で形成される等間隔なランダウ準位では電子―電子散乱が大きいため,赤外レーザーの実現は非常に困難であることがわかっていた。

一方,炭素原子一層のグラフェンではランダウ準位が非等間隔であるため,グラフェン発見当初から中赤外レーザーの実現可能性が指摘されてきた。しかしながら,当波長領域の検出器が未発達だったため,ランダウ準位に起因したグラフェンからの発光を観測した報告はなかった。

研究グループでは,磁場下でグラフェンからの微弱な中赤外光を検出するための極低温光学系の開発に取り組んだ。今回,研究グループは量子井戸をベースとした高感度な検出器(電荷敏感型赤外フォトトランジスタ)を用いて,磁場下(5テスラ)における電気駆動のグラフェンから中赤外発光を観測した。発光する閾値電圧の値から電流端子近傍の二つの対角線上コーナーから発光していることが示唆されている。

ランダウ準位発光では,ランダウ準位のエネルギー差に相当する波長の光が放出される。グラフェンでは,そのエネルギー差は磁場の平方根に比例する。今回,磁場を掃引した分光測定によりグラフェンからの発光が磁場の平方根に比例して波長可変であることを実証した。

研究グループは,非等間隔なランダウ準位の特徴を活かし,磁場により波長可変な赤外レーザーへの発展が期待されるとしている。

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